第9話 仔犬(3)

「あっ・・」


翌朝。


夏希のところにそのまま泊まってしまった高宮は、同じく出勤しようとした斯波と萌香と部屋の前で遭遇してしまった。


「あ、おはようございます、」


萌香は笑顔で鍵を閉めながら会釈をしたが、


斯波はブスっとして機嫌が悪そうに、アゴで挨拶をした。


はあああ。



も、朝から。


テンション下がるし。



しかし夏希は満面の笑みで


「ね! 斯波さん、栗栖さん! 見て! これ~~!」


夏希はキャリーバッグに入った、仔犬を見せた。


「え? 犬??」


さすがに斯波も驚いた。


「あ!バカ、」


高宮は慌てて彼女を制した。


「え、なに?」


「・・ここ、ペットOKか訊いてないんだろ~~、」


いちおう大家である斯波の顔を伺いながらコソっと言った。


「あ・・そっか。 ええっと。 隆ちゃんの犬です。」


夏希はとりあえずそう言った。


「え、高宮さん、犬飼うの?」


萌香は驚いた。


「・・はあ。 なんか。」


「でも! 二人で飼おうねって! 隆ちゃんは忙しくて留守する時もあるから。 あたしも預かりたいし!」


またも夏希は子供のようにはしゃいで言った。


「だからっ!」


高宮は彼女の口を押さえた。


「・・別に。 ペットはダメじゃないけど、」


斯波はボソっと言った。


「え、ホントですかあ?  よかった~。 あたしもココで面倒みたいし~って思って! も、ほんっとカワイイんですよ~~。」


クンクンと鼻を鳴らす仔犬にほお擦りした。


「で・・ドコ連れてくの?」


萌香が訊くと、


「買ったペットショップ、会社の近所だったんですけど。 まだ小さいので昼間は預かってくれるって言うんで。」


高宮が説明した。


「そうなの~。」


萌香は仔犬の頭を撫でた。


「なまえは?」


と言われて、二人で固まった。


「ええっと。 なんだっけ?」


夏希が高宮に訊いた。


「・・ん。 考えてなかった、」


高宮も彼女を見て言う。


「そっかあ。 名前つけないとね~。 隆ちゃん、ちゃんとつけてあげてね。」


夏希は仔犬を抱っこして鼻先にキスをした。


「もう夢中ね、」


萌香は笑った。




「・・あいつ、いよいよ本気かよ、」


楽しそうに前を歩く二人を見ながら斯波はコソっと萌香に言った。


「は?」


何を言い出すのか、と彼女は彼を見上げる。


「犬なんか!」


「なんで犬が関係あるの?」


「そんなもん! 二人で飼おうね、なんて! 『子は鎹』みたいなもんじゃねえか、」


斯波はすこぶる機嫌が悪そうに言った。


「『子は鎹』~?」


わけのわからないことを言い出す斯波にまた萌香はため息をついた。


「それはわからへんけど。 でも・・仲がいいのはいいことじゃないですか。 まあ、くだらないことで口げんかをするところは見ますけど・・本当に最近はお似合いになってきたな~って思うし。 高宮さんが加瀬さんのこと、めっちゃかわいくてかわいくて仕方ないって感じの表情も。 微笑ましいし。 」


「かわいいって!」


「かわいいやないですか。 あなただって加瀬さんのこと、めっちゃかわいがってるのに。」


と、斯波をからかうと、


「おれは! 別に・・そんな気持ち悪くかわいがったりしてねえ!」


めちゃくちゃな言い様に萌香はうつむいて笑いを堪えるのに必死だった。




昼休み。



八神が愛娘・桃の写真を収めた携帯をニヤつきながら見ているのをすかさず見つけた夏希は


「あ! 桃ちゃん。 かわいくなってきましたね~~。」


と、飛びついた。


「だろ~。 ちょっと笑うかな~って思うこともあって~。 おれが抱っこするとね、泣き止むんだぁ~。」


もう顔が崩れて崩れてどうしようもなかった。


「なんか・・わかります!」


夏希は胸に手を充てた。


「はあ?」


「今、どうしてんのかなァ・・とか! 泣いてないかな~とか。」


夏希は仔犬に思いを馳せた。


「・・いつの間に子供できちゃったの?」


八神が全くの冗談を真面目な顔で言うと、


「そう! ほら、ウチのコ! かんわい~~でしょ??」


夏希は得意気に携帯に撮ったワンコの写真を見せた。


「・・犬??」


八神はそれを凝視した。

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