第7話 仔犬(1)

「何見てるの?」


昼休みランチから戻ってきた真緒は高宮が読んでいた雑誌を覗き込んだ。


「え、」


ちょっと恥ずかしくて伏せてしまった。


「え、なに~? 隠したりしてあやし~。」


と笑って、無理やりその雑誌を見てしまった。



「犬?」


意外な雑誌に真緒は驚いた。


犬の専門雑誌だった。


「・・う、うん・・」


「犬、好きなんだァ、」


「好きっていうか。 飼おうかなあ・・とか。」


「え、犬飼うの? 独身男が!」


と言われて、ムッとして


「いけませんか?」


と言った。


「あたしの友達、渋谷でペットのトリマーのやってんの。 彼女ならいいペットショップ知ってるだろうから。 紹介してあげる。」


「え、ホント?」


「ウン。 犬はね、信用のできる店から買わないとダメだって。 少しは安く買えると思うし、」


真緒はニッコリと笑った。




「あ、隆ちゃん。 お母さんがいっぱいじゃがいもとキノコ送ってきたの。 今日、持ってってもいい?」


夏希が廊下で会った高宮に声をかけた。


「え? あ~~っと・・今日は・・」


真緒の友人に紹介してもらったペットショップに行く日だった。


「都合悪い?」


「あ・・接待があって。 ちょっと遅くなるかも、」


とっさにウソをついてしまった。



彼女にナイショで仔犬を買ってびっくりさせたかった。


「そっかあ。 じゃあ、また電話するね。」


ちょっと残念そうに夏希は言った。


「あ、ごめん。 うん、おれも電話するから。」


と取り繕った。




「え? 離婚の理由?」


「ウン。 なんかね。 はっきり言わなくて。 彼が忙しくてすれ違いっぱなしだから・・としか。 お義母さんも、そんなことで?って深く聞こうとするんだけどね~。」


南はため息をついて、志藤と二人仕事を終えて会社を出ようとしていた。


「真太郎もさあ。 真緒はわがままだから、としか言わないし。」


「ジュニアは真面目やからな~。」


「と言って。 真尋なんか離婚の原因なんか、どうでもいいじゃんってカンジだし。 あたしもあんまつっこんで聞いていいのかな~~って。」


南は密かに真緒のことで悩んでいた。


「まあ・・二人にしかわからへんことあるし。」


「そのダンナさんともお義父さんが電話で少し話しただけで。 向こうも『すみません。』ってそれだけだって。別に真緒ちゃんも慰謝料とかなんもいらないっていうし。 すんなり離婚はできたけど。」


「子供・・おらへんかったんやなあ、」


「うん。 まあ別に、欲しいとも欲しくないとも言ってたことないけど。 でもさあ、ほんまにいい人やってんで? 官僚ってカンジやなくて。 スポーツマンで。 さわやかで。 まさか浮気とかしたんかなァ・・」


「それもさ、真緒ちゃんがいいって言ってるんやから。 詮索せんほうがええんとちゃう?」


志藤はふっと笑った。


「そっかあ・・って!」


南はいきなり出口にやって来たときに志藤の腕を引っ張った。



「あ?」


彼女の視線の先には


高宮と真緒が二人連れ立って会社を出て行く姿が見えた。


「・・高宮?」


志藤も目を凝らす。


「うん・・」


何だか楽しそうに二人で会話をして。


「・・仕事? ってカンジと違うみたいやけども・・」


南は首を捻る。


「ま・・社長の娘やし。 いい女やし。 これは、しゃあないかも、」


などと志藤が言い出したので、


「ちょっと! しゃあないって、」


南は彼を小突いた。



二人はタクシーに乗り込んで行ってしまった。


「これも詮索せんほうが・・ええのん?」


南はそれを見送りながら言った。


「・・できれば見なかったことにしたいけど、」


志藤はボソっとそう言った。



「うわ・・このコ! かわいいよ! ほら!」


真緒はちいさなちいさなぬいぐるみのようなトイプードルを抱き上げた。


茶色いくるくるの毛で、真っ黒なまんまるの目をして鼻をクンクン言わせている。


「それは生後4ヶ月。 でも、このコはお父さんもお母さんも小さくて。 『ティーカッププードル』になるかも、」


店員は笑った。


「は? 『ティーカップ』??」


高宮は訊き返した。


「ほら、流行ってるみたいじゃない。 ティーカップに入っちゃうくらいちっさいプードル! 大人になってもミニサイズらしいよ。」


真緒はその仔犬の頭を撫でた。


「へえ・・」



高宮がその仔犬の頭を撫でると、じーっとつぶらな目で見つめられ


男心にもきゅううんとくるものがあった。

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