第6話 気になる彼女(3)

「え、なんか・・意味わかんない・・」


真緒はぼんやりとした口調でそう言った。


「もっと、自分しかできないこと頑張って見つけていこうと思わないの? 北都の家とかそんなの関係なく、兄貴たちの才能とかそんなのも置いといて。 こんなに恵まれた環境に生まれて、もっともっと自分のしたいこといっぱいできたのに。」


高宮はだんだんと自分が興奮していくのがわかった。


「もう、遅いよ・・」


真緒は少しいじけて言った。


「遅くない。 人間いつからだって、こうしたいって思って生きることはできるから。」



自分に


言っているようだった。





翌朝。


真緒は車で出勤しようかと準備をしていた。


すると南が出てきたので、


「あ、南ちゃん。 乗ってく?」


と声をかけた。


「え? ああ。 あたし電車通勤って決めてんの、」


南は笑った。


「電車? いつも電車なの??」


「そうだよ。 だって地下鉄で2つやもん。 車なんかより速いし、もったいない。」


「南ちゃんは専務夫人なのに。 真太郎はお父さんと車でしょ?」


「そりゃ、社長と専務やもん。 あたしはヒラやん?」


と、いたずらっぽく笑った。



ヒラか・・。


あたしなんかバイトだしね。



真緒は車で行こうとした自分を反省し、


「あたしも電車で行く。」


とニッコリ笑った。



「え! なにこれ! 切符いらないの??」


「そうだよ。 定期がここに入ってるやろ? んでそのまんまタッチすると、入れるねん。 真緒ちゃんはこのカードをかざすと、チャージしたお金ぶん使えるんだよ。」


「す・・すごい! いつのまに日本、こんなん??」


自動改札にカルチャーショックだった。


「ていうか。 あたし、日本にいた時もあんま電車乗らなかったし・・」


「アハハ、お嬢さまやもんなあ。」


南は軽く笑い飛ばした。


「昨日・・高宮さんにゴハンつれてってもらったんだけど、」


電車を待ちながら南に言った。


「え? 高宮に?」


「ウン。 なんか。 怒られちゃった、」


「はあ?」




「え、高宮さんて・・あの元財務大臣の高宮って人の息子だったの?」


南から高宮の事情を聞いて、


真緒は大きな目をぱちくりさせた。


「ウン。 まあ、その亡くなったお兄さんのこともあって。 彼、ずうっと一人で生きていこうって思ったみたい。 けっこう悩んだみたいよ。」


南から高宮のことを聞いた。


「そう・・だったんだ・・」


「だからね。 人に甘えて生きてる人間見るとさあ・・黙ってらんないんじゃない? ほんまに彼、あたしよりめーっちゃ大人やし。 ちゃんと生きてるなあって感じするし。 頭よくって、仕事もできて。 社長もほんまに信頼してるし。」


駅について、たくさんの人に押されるようにホームに出た。


「って! いつもこんなに混んでるの~?」


真緒はたった10分ほどの通勤も驚きの連続だった。


「普通、普通。 こんなの。」


南はまた笑い飛ばした。




「あ、おっはよーございまーす!」


高宮が出社すると、真緒がデスクの掃除をしていたので驚いた。


「お・・おはよ。」


「昨日はごちそうさまでした! あそこの店、美味しかった。」


とニッコリ笑う。


「い、いや。 あのさ、」


「え?」


「もちっと・・雑巾絞ったほうがいいんじゃないかな・・」


デスクの上が若干濡れている。


「え!」


「ほら・・書類が・・」


ぴっとりとくっついてしまっている。


「あー!! 大変!」


慌ててそれをはがそうとしてビリっと破ってしまった。


「あ~あ~もう。 なれないことしてますってみえみえだなァ、」


高宮はそれを手伝った。


「ハハ。 ほんっと、ヨメにも行ってたくせに家事もできないし、」


真緒は力なく自嘲した。


「だから。 自分がなんもできないとか。 はじめっから諦めちゃダメだろ?」


高宮は一緒にデスクを片付けながら、少しやさしくそう言った。


「・・あ・・うん、」


少しだけ


気が楽になっていくのがわかった。

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