第5話 気になる彼女(2)

彼女は


いい意味でも悪い意味でも


全然、こういう金持ちの家に育った娘って感じじゃなくて。


会話も


悪いけど


上品と違うし。



だけど


すっごいナチュラルで。


外交官の妻だったなんて


とっても思えない。



高宮はぼんやりとそう思ったりした。



「へー。 んじゃ、高宮さんもアメリカにいたんだァ。」


「おれはNYだけど、」


「でもコロンビアなんて頭いいんだね~。 あたしはお父さんのコネでロスの大学になんとか入っただけだけど。」


そんなこともあっけらかんと言うし。



「だけど。」


真緒はスッと思い出したように箸をおいた。


「今思えば。 もちょっと働いたりしておけばよかったって。」



「え?」


「やっぱ。 捻くれてたのかなァ・・」


さっきまではしゃいでいた彼女の声のトーンがいきなり落ちた。



「真太郎は子供のころからあのまんま。 勉強がすんごくできて。 真面目で。 も、ほんっと勉強が趣味かなってくらい彼女も作らないでさあ。 あんまりね、真尋やあたしとは一緒に遊ぶとかもなかった。 親も真太郎には期待してたと思うし。 ちょっと違うところにいるかなあって。」


真緒はクスっと笑った。



高宮は


死んだ兄のことを少し思い出した。


「長男は。 そんなもんだって・・」


「真尋はほんっと。 頭悪かった。」


と突然言ったので、思わず吹き出してしまった。



「・・なに、それ・・」


「え、ほんとだって。 もう性格もめちゃくちゃだったし。 親も真太郎に全神経を集中してたのかわかんないけど、あたしと真尋は放任だったしね。 ・・でもね。 ピアノ習いたいって言い出したのはあたしだったの。」


真緒は高宮を見た。


「え、」


「あたしが4つで真尋が5つの時。 んで、ウチにピアノの先生が来て教えてくれてたの。 真尋は別に習ってなかったんだけど、あたしのレッスンの時に、ずううっと後ろでしゃがんで見ていて。 始めて1ヶ月もしないうちだったかなあ。 突然、『真緒よりおれのがうまい。』って、いきなりピアノ弾き出しちゃって! それがさあ・・先生がびっくりするくら巧くて。 もちろんピアノなんか弾いたことなかったのに。 もう先生もあたしより真尋に夢中になっちゃって。 あたしはすぐにやめちゃった、」


真緒は少し飲んでいた冷やの日本酒で酔ってきたようだった。


「出がらしだもん、」


そして、遠くを見るようにそう言った。


「でがらし・・?」


「そう。 出がらし。 兄貴たち二人に、いいトコ出つくして。 気がついたら、あたしなんも持ってなかったし。」



少し


胸が痛かった。



「もう親の威光借りるしかないじゃない? いろんなこと努力することバカバカしくなっちゃって。 あたし、高校生の時、ちょっと芝居とか興味あって。 あるドラマのオーデション応募したの。」


真緒は少し身を乗り出した。


「北都の娘ってこと隠して。 偽名まで使って。 そしたらね、やっぱ落とされた。 なんか悔しくて、次のときは本名で行ったらね。 不思議なことに通るのよ、」


身振り手振りを交えておかしそうに話をした。



だけど


高宮は笑えなかった。


「端役だけど、ちょこっとテレビに出たことあるんだよ。 『一ノ瀬ゆかり』の娘って・・ちょこっとスポーツ紙の芸能欄に載ったこともあるし。 そしたらそれもなんかヤになっちゃって。 本気でヤル気なんかなくなっちゃった。」



なんだろ。


彼女の言うことが


いちいち


すんごくよくわかる。


「挙句の果てに離婚だもんね。 親も呆れてると思うよ、」


真緒は頬づえをついてふふっと笑った。



「人のせいにしちゃダメってことだよ、」


高宮はウーロン茶の入ったグラスを静かに置いた。


「え、」


真緒は彼を見た。



「親兄弟がどうこうじゃなくて。 自分が一番自分らしくいれる場所を自分で探す。 だって、自分はこの世にひとりしかいないのに。 それを自分から諦めて、いじけて。 何にもとらわれずに、自分を見失わずにひとりで生きていくって自分の人生なのになんでそんなに引いて生きていかなくちゃいけないの?」


高宮は思わず本音を言ってしまった。

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