第4話 気になる彼女(1)

「おれも知らなかったもん。 社長に娘がいること。」


その夜、久しぶりに高宮の部屋に行って夏希は一緒に夕食を食べた。


「え、隆ちゃんも~?」


「けっこう社長の家には行ったりしてるけど。 気配ゼロだったし。 まあ、高校出てからずっと海外だったらしいから。 てゆーか、話題にも出てこなかったし。」


高宮はごはんをパクついた。


「それで隆ちゃんのトコで仕事してるの?」


「ウン。 それが、バイトさえしたことないって。 大変だよ。 電話なんかもフツーの家みたく出ちゃうし。 社長の娘だから他の女子社員も敬遠気味だし。」


「でも・・すんごく気さくな人でした。 おしゃべりで明るくて。」


「年はおれと同じらしいけど・・」


「んじゃあ隆ちゃん、仕事も教えないとだし。 大変だね、」


「まーね。 まあでも。 それ込みで社長秘書の仕事かなあってカンジだし。 社長に頼まれちゃあ、断れないし・・」


「なんかサラリーマンって感じの悩みだね~、」



そんな風にお気楽に言われると、


高宮はついつい笑ってしまう。





「・・引っ越すとこ決めたの?」


夏希はベッドからもそもそと出て服を着た。


「ん。 それも探し中。 まあ、来年の3月までに決めればいいから、」


高宮もベッドから手を伸ばしてタバコを手にした。


「犬とか飼えるトコとかよくないですかァ?」


夏希は笑った。


「犬~?」


また突拍子もないことを言い出す夏希にタバコをくわえながらそう言った。


「中学までずうっと実家で犬飼ってたんだけど~。 雑種だったんだけど、クロって言って。 その子が死んじゃってから、お母さんが動物は死んじゃうからイヤだって言って飼ってもらえなかったの。 でもずうっと犬飼いたかったし~。」


「犬ねえ・・」


「隆ちゃんは嫌い?」


「え・・実家にはいるけど。 恵が飼ってたから。 今は2匹くらいいるんじゃない?」


「この前もペットショップにすんごいかわいいトイプーがいて! しばらく見とれちゃいました。」


夏希はうっとりしたように言ってまたベッドに入ってきた。



犬ねえ・・。



なんか二人で育てるってのも


いいかなァ



高宮は妄想した。



とりあえず彼女と棲むという件は先送り(?)になったが、もう少し広いところで彼女と一緒に過ごすスペースも欲しいかなァ



それで、


そうやってるうちに


『結婚』とかなったりしてもそのままそこに住めるような。



などと思うと、すぐにでも引っ越したくなった。





「てさあ。 どう思う? ロンドンから戻ってきたらさあ、なんかしらねーけど、1回出てったヤツがさあ・・ウチにいるし! んで、なんかしらねーけど! ここにもいるし!」


真尋は玉田と共にロンドン公演から戻ってきたが。



早速、事業部にやってきて志藤のデスクの横に座ってボヤいた。


「真尋にはカンケーないじゃん!」


志藤のところに書類を持ってきた真緒は苦々しい顔で彼をジロっと睨んだ。


「ったくワケわかんね~。 なんで一家でここにいなきゃなんねーんだよぉ。真太郎はOKなの?」


「もー、ほんっと真太郎にも文句言われるし~。 自分だって思いっきりコネじゃん! よく考えたら。 ほんっとうるさいったら。」


真緒はため息をついた。


「ええやんなァ。 美女がいれば勤労意欲もわくと言うもの。 それに英語もフランス語もペラペラやし。 ウチでも仕事してもらおっかな。 ウチ、フランス語話せるヤツいないし。」


志藤は真緒の持ってきた書類に目を通しながら言った。


「え~! ほんとですかァ? うれしー! ほんと、接待とか。 あたし得意だし!」


真緒は喜んだ。


「キャバクラのねーちゃんかよ、」


真尋はぐったりとした。





「またファックスをウラで流した? 電話が来て、真っ白ですよって言われたし、」


高宮は疲れたように真緒に言った。


「えっ! あっ・・すみません。 も~~、なんで間違っちゃうんだろ。 ウチのは流したい面を上にして流すもんで・・」


「・・気をつけてね。」


もうため息しかでなかった。



それでも。


真緒は一生懸命、パソコンを使えるように遅くまで残ったり、資料の整理も間違わないように必死にやっているのを見ると、社長の娘であることを除いても、頭ごなしに怒ったりすることはできなかった。


「・・メシ、食ってく? もう9時だし。」


高宮は真緒にそう声をかけた。



「え~? 高宮さんてあたしと同い年? なんか見えなかった。」


近くの和食のダイニングに彼女を連れて行った。


「え、それってどういう意味?」


ちょっと顔をしかめると、


「だって。 すんごい偉そうなんだもん、」


真緒は屈託なくアハハと笑った。


「えらそう・・」


「あ、そういう意味じゃなくって! ほら、お父さんの秘書だし。 秘書課のチーフでしょ? だから。 もちょっと年上かなって。」


「ああそう・・」


「このサラダ、おいしー! ドレッシング、どんなんなんだろ、」



コロコロ話題が変わったり、


高宮は何だか会話についていけなかった。


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