第3話 或る日(3)
「ただいまもどりましたァ・・」
夏希が疲れた顔をして、事業部にやってきた。
「あ~、ごくろうさん。 大変やったな。」
南が声をかける。
「はあ。 でも・・なんとか打ち合わせは終了して。 斯波さんに言われた細かいところは確認してきましたんで・・」
「加瀬も立派になったなァ。 もうひとりで出張とか行かれるもんな~。」
南は笑った。
「出張ったって。 あたしの地元の福島だったから、斯波さんも行かせてくれたんであって。 話も全部できてたのを確認しに行っただけだし。 あ、コレお土産です。」
夏希は鞄からお菓子を取り出した。
「それでもすんごい出世だよ~。 斯波ちゃんもなんとか加瀬を一人前にしようと思ってさあ。」
「あたしだってもう3年目ですし。 体力には自信あるし、出張とか大好き!」
夏希は嬉しそうに言った。
「実家とか寄ってきたの?」
「ええ。 わりと近かったんで、ホテルに泊まらないでウチに泊まってきました。」
「お母さん喜んだやろ、」
「え~? 別に。 なんでいきなり来るの?とか言われちゃって。」
「ハハ・・ほんまおもろいお母さんやなあ。」
そこに。
「あ、南ちゃーん。 お昼、まだ?」
真緒がやって来た。
「え? ああまだやけど。」
「一緒に行かない? あたしもこれからだし。」
「ウン、いいよ。」
見知らぬ彼女に夏希がポカンとしているのを見た南は
「あ、彼女。 真太郎と真尋の妹の真緒ちゃん。 ま、あたしの義妹やけど。 今日から秘書課でバイトしてるの。」
と紹介してやった。
「え。 ええっと・・じゃあ、社長の・・」
夏希は驚いて立ち上がった。
「はい、娘です!」
真緒は堂々とそう言ってニッコリ笑った。
「えっ! こっ・・こんにちわ! じゃなくて・・初めまして! クラシック事業部の・・加瀬と申します!」
慌ててお辞儀をする彼女に
「そんなに緊張しないで。 ほんっとただの雑用でバイトだから。 ね、一緒にゴハン行かない?」
社交的な真緒はさっそく夏希にも声をかけた。
それにしても。
社長って娘さんもいたんだ。
ぜんっぜん知らなかった・・。
食事に行った先でも夏希はいろんなことを考えてしまった。
だけど
ぜんぜん気取ってないし。
すんごいおしゃべりで。
「・・そしたらさあ、そこの店長がね・・」
南と話をしていると、もう身振り手振りで話も止まらない、という感じで。
「どないしてん、加瀬。 おとなしいね。」
南が言うと、
「え? あ~、いえ。」
ハッとしてまた食べ始めた。
「加瀬さんは・・いくつ?」
真緒に言われて、
「・・25ですけど・・」
「25かあ・・。 わっかーい! いいよね~~。 やっぱ20代に戻りたいなァ。 もっと遊びたかった~。」
真緒はうらやましそうに言う。
「十分遊んだやん。 まだ遊ぶ気?」
南は呆れた。
「もっとやることやって結婚すりゃよかった。」
真緒は少し声のトーンを落としてポツリと言った。
「え・・」
夏希がハッとして彼女を見ると、
「ああ、バツイチで出戻ってきたの。」
真緒はやっぱりあっけらかんとそう言った。
「えっ・・」
この場合。
どーゆーリアクションとればいいんだろ。
夏希は一生懸命考えた。
「・・・おつかれさまです・・」
そして出た言葉がこれで。
真緒は一瞬きょとんとしたあと、南と顔を見合わせて大笑いしてしまった。
「は?」
夏希は二人を交互に見る。
「おもしろいね~~。 加瀬ちゃんって!!」
「そやろ~? も、リアクション楽しみで楽しみで。 今もワクワクしちゃった。」
南も大笑いだった。
そ、そんな
おかしかったかなァ。
夏希だけが蚊帳の外だった。
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