第13話 誕生日にはバラの花

「お誕生日何が欲しい?」


 この年齢としになると、そう手放しでは喜べないバースデー。それでも妻が祝ってくれるのは嬉しいもの。だけど、プレゼントをこちらから指定するのは、なんとなく味気ない。


「趣味じゃないもの選んでがっかりさせたくないし」


 妻の言い分もわかるが、やはりプレゼントの醍醐味はサプライズ感だとぼくは思う。自分では買わないけど、ひとからもらうと嬉しいもの。


「自分じゃ買わないもの……」


 難しい顔で考えこむ妻をそのまま放置したことを、ぼくは誕生日当日にかるく後悔することになる。


「ハッピーバースデイ!」


 いい笑顔で妻がさしだしたプレゼントは、懐かしの某有名漫画愛蔵版であった。


「自分じゃ絶対買わないでしょ」


 うん……そうね。おそらく一生懸命考えてくれた──あげく一周まわって妙なところに着地した──妻にお礼を言い、バラを背負った主人公の漫画を次の休日に二人で読破した。ベルサイユに行きたい? はいはい今度ね。

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