第12話 気分はミリオネア

「贅沢がしたい」


 妻がこんな欲望をもらすときは要注意だ。仕事やら何やらで溜まりに溜まったストレスが、そろそろ臨界点に達する頃合いだという証拠だから。


「豪遊したい。金に糸目はつけん」


 どこの成金ですか。すっかりすさんだ目つきの妻に、これは一刻の猶予もならないなと、ぼくは流しの下からホットプレートを引っ張り出す。


 水の代わりに牛乳でといた生地に、きざみキャベツと紅生姜。空気を含ませざっくり混ぜたら、


「早く早く」


 お好み焼きパーティーのはじまりはじまり。豚バラの焦げ目も麗しい山吹色の円盤に、ソースとマヨネーズをこれでもかと塗りたくる。鰹節と青のりも好きなだけ。お供は当然、シュワシュワで金色のアレ。


「贅沢!」


 今夜は心ゆくまでお大尽気分にひたってくだせえ、親分。


「次はチーズも入れていい?」


 もちろん。キムチも納豆も、なんならモチもありますぜ。


「じゃあ全部」


 合点承知。お手軽贅沢ナイトはまだまだこれからなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る