第9話 居酒屋道場
「熱燗一合、おちょこ二つ。あと、もつ煮とたこわさ」
流れるような注文とはこのことだと、年季の入ったカウンターでぼくは妻の雄姿を眺めている。
全国有数の酒処で育った妻は、日本酒の飲み方がじつにうまい。なんというか、堂に入っているのだ。徳利の傾け方とか、おちょこへの口のつけ方なんかが。
「じいちゃんに鍛えられたから」
妻の声が湿っぽくなった。お祖父ちゃん子だった妻にとって、今日の三回忌法要はいろいろと思うところがあったのだろう。
「わたしが死んだらお棺にお酒入れてね。飲みながら待ってるから」
冗談じゃない。事後処理を押しつけられたあげく、三途の川のほとりで酔っぱらいの介抱なんて。年齢順ならぼくが先でしょう。そのときはカルーアミルクを入れてください。
「お棺に瓶はだめだよ。コーヒー牛乳でいい?」
あんまりよくない。
とりあえずお酒は生きているうちに楽しもうと、ぼくはバイト君に手をあげた。あ、唐揚げもお願いします。
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