第8話 大根ゴーホーム

「大根て、英語でなんていうか知ってる?」


 そう訊いてくる妻の顔は、すでに笑いをこらえている。なにやら愉快なことがあったらしい。昨日のおでんをつつきながら、ぼくらはビールで晩酌中だ。


「ラディッシュだって」


 なぜか畑がある妻の職場では、毎年この時期に大根掘り大会が催される。そのお知らせを、外国人スタッフ向けに妻が英訳したのだとか。


「収穫した大根はお持ち帰りいただけますって、訳せる?」


 ……カムバックウィズ大根? 違うか。


「わかんないから翻訳アプリにかけてみたの」


 表示された英訳を、妻は念のため再度アプリにかけてみた。今度は英語から日本語へ。そこで出てきた訳が――


「――大根が帰宅します」


 ビール噴いた。


「間違ってはいないけど……」


 うん、間違ってない。大根の帰還。


 その日一日思い出し笑いに悩まされたという妻と同じく、翌日ぼくもたいそう難儀した。今日はいよいよ大根様が帰宅されるらしい。つつしんでお迎えしなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る