第3話 蝶々さん

「窓辺がさびしい」


 そんな妻の一言により、ぼくらは花屋の前にいる。ポトス、アイビー、シュガーバイン。葉の形も緑の濃淡もさまざまな植物たちは、冬の陽だまりの中でちょっぴり眠たげだ。


「お花もいいな」


 スミレ、パンジー、フィオリーナ。色とりどり、薄くてひらひらの花びらはまるで――


「パンツみたいだね」


 往来でパンツとか言うんじゃありません。


「じゃあ蝶々」


 正解。そしたら蝶々つれて帰る?


 しかし妻はパ……もとい蝶々の鉢を見比べて「今日はいい」と首をふった。


「どれにするか決められないもの。迷ったときは買わない」

 

 だからまた今度、と次回の散歩の口実をつくって花屋をあとにする。本屋、薬局、クリーニング店を過ぎたところで、妻は小さなケーキ屋に吸いこまれていった。


 チョコレートケーキ即決のぼくに対して、妻はモンブランとチーズケーキで散々悩み、結局どっちも買った。


「迷ったときは両方」


 さっきとおっしゃっていることが逆ですねえ。

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