第41話 貧乏神って必要なの?・・・

 猿田彦大神さるたひこのおおかみ拓也たくやに貧乏神について説明を始めた。


 『よいか例えばじゃ、一人分のご飯しかないとしよう。』

 「?」

 『だがそこに二人おり、どちらかしか食べられん場合はどうなる?』


 「分けて食べればいいじゃん。」

 『確かにな、だが、それが人はできん。』

 「?」

 『欲に人は支配される。まして飢えていた場合はなおさらじゃ。』

 「まあ、確かに・・。」


 『腹が満杯ならば譲ることや、分けることもあるじゃろう。

だがな、人は満腹であっても未来のことを考える。

不安に捕らわれたり、自分や家族以外はどうでもよくなる。』

 「はぁ、まぁ、それは・・そういうこともあるかと。」


 『飢えていて力の強い者が一人占めして食べたとしよう。』

 「・・・。」

 『食べられた方は幸せで、食べられず空腹を抱えた者は不幸だと感じる。

これが福の神と貧乏神を産んだ原因じゃ、わかるか?』

 「え~と、なんとなく・・・。」


 『よく分かっておらんのう・・。

ならば遺恨のある者に、不幸になれと思ったことはないか?』

 「あ、それはある。」

 『ならば、その者に貧乏神が取り憑き、自分は福の神に好かれたいと言えばわかるか?』

 「ああ、なるほど。 それで貧乏神が産まれたと。」


 『そうじゃ、人により産まれた神がおる。

そして神にはそれぞれの役割があり、この世の因果関係を形成しておる。

つまりじゃ、人にとって不都合であろうが神とは世のことわりとして必要な存在じゃ。

だからどのような神であってもうやまやねばならぬ。』


 「う~ン、分かったような分からないような・・。」


 『まだ分からぬとはのう・・。

ならば何故影ができると思う?』


 「え? あの太陽でできる影のこと?」

 『そうじゃ。』

 「あれは太陽の光があたるからでしょ?」

 『そうじゃ、太陽があるから光と影が産まれる。』

 「まあ、常識だよね。」


 『同じようにお金はどうじゃ、買い物をすると財布からお金がなくなるじゃろう?』

 「そりゃあ、買い物をすればね。」

 『なくなったお金は商品を売った者の財布に入る。』

 「うん? ああ、それを光に置き換えたのかぁ。

つまり光が当たって明るい部分がお金で、お金が無くなった状態が影なんだ。」

 『そういうことじゃ。

世の中というものは何かを得るということは、どこかが何かを失う。

つまり物欲も心の安定もプラスマイナスがゼロなのじゃよ。』

 「えっと、つまり・・?」

 『お金を払うことが疫病神、お金を受け取るのが福の神、分かるか?』

 「う~ん・・、分かったような気がするような・・。」

 『福の神が福を与えるという事は、何かから福を取って与えているということじゃ。

疫病神は福の神が人に与える福を拾ってくる神なのじゃよ。

福の神はいいかえると貧乏神でもあるのだ。』

 「そうなんだ・・、でも人にとって福の神はいて貧乏神はいて欲しくないなぁ。」

 『はぁ~・・、お前という奴は・・。』


 「ところでさ、神は人が産み出した存在なの?」

 『そうでもあり、そうでもない。』

 「へ?」


 『わからぬか・・。

そうだのう・・、では、この宇宙はなぜ生まれた?』

 「う~ん、ビックバンとかいうやつ?」

 『では、そのビックバンはなんで発生した?』

 「え? それがわかれば苦労しないんじゃない?」


 『そうじゃな、人では分からんじゃろう。』

 「でもさ、何時かはわかるんじゃね?」

 『無理じゃよ。』

 「ええ~、なんでそう言い切れるの?」

 『それはじゃ、人には五感、いや六つの感知機能しかない。』

 「ああ、それはそうだね、まあ霊感を入れればね。」


 『では、それらとまったく別の感知能力とはなんだと思う?』

 「へ? そんなもんあるのかな、でも感知能力はなくても多次元とか理論で分かっているよ?」

 『それは人にある空間認識を元に空想したものだ、自分にある感知能力に基づくものではない。』

 「そうかぁ、じゃあ、想像もつかないよ。」

 『そうであろう? 感じられない物をわかろうとしても意味がない。』


 「じゃあ人類は何時までも宇宙が分からない?」

 『普通はそうなるのう。』

 「普通?・・。」

 『例外が過去にあったということじゃ。』

 「え? 例外?」

 『いにしえに気がついた者がおるが、これは希有けうな事だ。』

 「へ? 六感しかないのに?」

 『そうじゃ、お前の身近な言葉でいうと悟りになる。』


 「え? じゃあお釈迦様は分かっていたと?」

 『釈迦か、そうじゃな彼奴もその一人だ。』

 「でもさ、お釈迦様は宇宙の真理について言ってないんじゃない?」

 『いや、密教などが伝えておろう。』

 「え? 曼荼羅とかいうやつ。」

 『まあ、そうじゃ・・・。』


 「だけどさ、あれがビックバンを解明しているように見えないよ?」

 『それは釈迦の知慧ちけいの全てを継げなかったためじゃよ。』

 「どういうこと?」

 『そんなことを儂が説明せねばならぬのか?』


 「ええ~、ここまで言っといてそれはないんじゃない?

乗りかかった舟とかいうでしょ、あと、多少触れ合う袖の縁とかさ。」

 『はぁ~・・・まあ、よかろう・・。』

 「やったね。」


 『人は栄華繁栄を求める。』

 「?」

 『釈迦の悟りへの教えを、自分の都合のよい解釈に誘導したのじゃ。

それは地位や名誉、はてまた金儲けなどのためにのう。

中には悟りについて自分の勝手な解釈を行い、釈迦の教えを曲げた者もおる。』

 「そうなんだ・・、だから真実の一部しか伝わっていないと?」


 『お前でも分かったか。』

 「まあね、それならまた釈迦のような人が出ればいいだけじゃん。

そうしたらビックバンだって分かるよね。」

 『釈迦は人の突然変異のようなものだ、出ないとは言わなんが今の文明では無理じゃろうな。』

 「そうなの?・・・。まあ、神様が言うんだからそうなのかな。」

 『これで説明はよいか?』

 「分かったような、わからないような・・。」

 『・・・お前らしいのう。』

 「・・・。」


 『まあよい、神とは人が産みだした神とは別に、人では理解できぬ存在である神がおるということじゃ。』

 「異なる神がいるということなんだね。」

 『まあ、そういうことだが、神は神ぞ。』


 拓也はなんとなく神が分かった。

だが、分かった気がしているだけで本当には分かっていないことを拓也は理解していない。

神はといえば、そのうち理解できるであろうと気長に考えているようである。


 神はポツリと拓也に告げる。


 『儂は武水別神社の神に話しておいたぞ。 後は頑張れ。』

 「え? ちょっと待って!」


 「あ、あの、神様?・・・って、いなくなっちゃた・・?」


 その時、プラットフォームに電車が入ってきた。

拓也は電車に乗り込んだ。

目的の駅は屋代やしろ駅である。


===========

注意)


私は宗教に詳しくありません。

また、宗教を否定したり批判する気もありません。

そしてビックバン理論の研究をされている方を揶揄するつもりもありません。

本小説は、こういう考え方もあるとか、こう考えたらどうなんだろうという想像に基づいております。

その点をご理解の上、不快に思う方が要らした場合はご容赦願えればと思います。

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