第39話 神様との問答・・空回り編

 神様の突然の声に拓也は悲鳴を上げた。

そしてハッとなる。


 慌てて周りを見渡した。

幸い周辺に人はいない。

セーフ・・。


 突然、誰もいないのに悲鳴を上げれば、周りの人は何事かと驚き奇異の目で見られただろう。


 「はぁ~、神様、突然声をかけんなよ、頼むからさぁ。」

 『なぜじゃ?』

 「あのさ、突然に声をかけられたらビックリするでしょ?

それも誰もいない所でさ。」


 『何故驚くのだ? 神の声ぞ。』

 「だから尚更なの!」

 『ふむ・・、驚いたなら神に対して何かやましい気持ちがあるからであろう?』


 「あのさぁ、疚しい気持ちがなくてもビックリするでしょ!」

 『何故じゃ?』

 「何故って・・、神様、人間てさ、臆病な生き物なの。

だから突然声をかけられるとビクッとすんの。」

 『ふむ、そういうものなのか?・・。』


 「だからさ、突然に話しかけるのやめてくんない。」

 『無理じゃの~。』

 「何で? これほど説明しても?」

 『神のなすことだからだ。』

 「え? それが理由?」

 『そうだ、不服か。』

 「・・・いえ。そう言われる気がしていました。」


 しばし拓也は片手を米神こめかみにあて、天を仰ぐ。


 手の隙間から青空が見える。

ああ、綺麗な青空だ。


 諦めの境地である。

悟り、ともいう。


 拓也は肩をカクリと下げた。

拓也は諦めのポーズから姿勢を戻し、神様に聞く。


 「あの~、これから打ち合わせがあるんですが?」

 『そうか、すればよい。』

 「いや、そうじゃあなくて! 話しかけてきたということは神様のお仕事についてでしょ?」

 『それ以外あるまい?』

 「俺、今から仕事なの。

もし仕事に行かないで神様の言うことをしたら首だよ?

わかる?

く・び・なの。

人は仕事をしないとお金が貰えない、分かる?

で、人はお金がないと生活ができないの。

そしたら神様の御用なんてできなくなるよ?

それでもいいの?

いい? バスにも電車にも乗るにもお金がいるんだよ?

そもそも人は霞を喰って生きられないんだよ?」


 『お前、何を言っておる?』

 「はぃぃ?!」

 『そのくらいは分かっておる。』

 「なら仕事が終わってから、神様の仕事を入れてよ。」

 『そうか、儂からの話しは不要か、ならよい。』


 神様の言い方に拓也は一瞬いやな予感がした。


 「あ、あの・・・神様。」

 『じゃあ、儂は帰る。』

 「え? あ、ちょ、ちょっと待って下さい、か、神様!」


 そう言って目の前に神様がいるかのように拓也は手を叩き拝む。

そう何もない駅前で、二礼二拍一拝をしたのだ。


 周りに人がいたなら、この様子をみて救急車を呼んだかもしれない。

だが、幸い周りには人はいなかった。

幸運の持ち主といえよう。


 だが、そんな拓也に向かい神様は怪訝な声を出す。


 『なんの真似だ?』

 「なにとぞ、先ほど私めに言おうとしたことを聞かせて頂けませんでしょうか!」


 拓也はまた深く礼をする。


 『やけに殊勝になったのぉ・・・』

 「あの、お聞かせ願えますか?」

 『よかろう。』

 「ありがとうございます!

で、どのような・・・。」


 『なに、たいしたことではない。』

 「?」

 『お前をサポートする巫女は今日は来ないという事だけだ。』

 「へ?」


 『だから今日はお前が一人でこなせ。』

 「え! そんな無茶な!!」

 『何がだ?』

 「だって、俺、神様にたいする態度がなっていないんだよ。」

 『そうじゃな。』

 

 「俺、神様に失礼な事を無意識でやっちゃうよ。」

 『さもありなん。』

 「さもありなん! じゃないって!」

 『何を怒っておる?』


 「だって無意識で行ったことで天罰なんて受けたくないって!」

 『ならば無意識で失礼な事をしなければよいではないか?』

 「あのさ、無意識な事は止められるわけないでしょ、神様!」

 『訳のわからんやつじゃのう・・・。

じゃあどうしたいのじゃ?』


 「あのさぁ、俺、巫女さんがサポートしてくれないと失礼な事をしちゃうの。」

 『だから、さもありなんと言っているであろう。

頭の弱いやつじゃのぉ。』


 「あのさ、そもそも今回巫女が来てくれるのは、俺が失礼をしないようサポートしてくれるためなんだろう?」


 『そう神社庁の者が儂に申しておったわな。』

 「俺、無意識で失礼をして天罰なんか受けたくないっていうの!」

 『だから失礼を働かなければよいであろう?』

 「あのさ、人の話を聞いている?」

 『聞いておるが?』


 「俺、無意識で失礼を働いちゃうよ?」

 『だから働かなければよかろう?』

 「あのさ、無意識をどうやって意識すればいいの?」

 『禅を組んで10年もすればできるぞ?』

 「そりゃあ10年先での話しでしょ?

でも今日の話をしていんの、今日の。

俺、今日、もしかしたらやっちゃうよ!」

 『何をだ?』


 「だから、神様に対して無礼を。」

 『お前、今日、神に無礼を働きにきたのか! 罰当たりが!』

 「あのさぁ・・・人の話を聞いている?」

 『聞いておるぞ?』

 

 拓也はこの会話にどっと疲れた。

だめだこの神様は。

ダメ神様だと。

人の考えていることが伝わらない。

どうしよう・・・。


 子供に諭すように俺の立場を分かってもらえるように話せばなんとかなるかな?


 そう思いつき拓也は神様に語りかける。


 「神様、巫女さんがいなくて俺が失礼を働かないためにはどうすればいい?」

 『お手上げじゃのう、それは。』

 「じゃあ、失礼を働いても神様がそういう奴だと知って貰うには?」

 『そう神に説明すればよい。』

 「それって人が神様に言って分かって貰える?」

 『無理じゃのう。』

 「じゃあ分かって貰うにはどうすればいい?」

 『神が神に言えばよい。』

 「じゃあ、神様、そう武水別神社の神様に言ってくれないかな?」

 『なんじゃ、儂にそうして欲しいのか?』

 「・・・うん。」

 『最初からそういえば良かろう?』


 神様の言葉に拓也は脱力した。

さっきから無意識に神様に失礼を働くからと訴えてたよね、俺。

普通さぁ、そう訴えたら方法を考えてくれるでしょう?

ましてや神様だよ?

人の願いを聞き届けてくれる人、じゃない、神様でしょ?

はぁ~・・、いやんなってきちゃった。

もう、今日仕事めようかな~・・・。

課長、仕事エスケープしたら怒るかなぁ。

怒るだろうなぁ~・・・。

・・・いや、怒るだけですまないかなぁ・・。

仕事に穴を開けるんだからぁ、へたすりゃ首かな?

うん、そうだね、首だよね。

それじゃあ、サボれないよね。


 拓也は再び溜息をついた。

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