第38話 やっかいな同僚・回想をする・・・

 拓也は、しなの鉄道線のテクノさかき駅に降り立った。


 「ふぁ~っ!」


 プラットホームで盛大なアクビをし、ついでに背伸びもする。

猫も真っ青になるくらいの背伸びであった。

そして改札を抜け駅構内から出た。


 すると目の前には小さなロータリーと、さほど高くない山が目の前に飛び込んできた。

小鳥のさえずりが聞こえる。

人も疎らまばらだ。


 「う~ん・・、長閑のどかだなぁ・・・・。

なんでこんな良い場所に会社があるんだろうね。

仕事なんかしないで、コーヒーを飲みながら景色を楽しむのにもってこいなんじゃない?」


 と、拓也は愚痴った。

要は自分が仕事をしたくないだけである。


 拓也はちらりと時計を見た。


 「もう少し遅くきてもよかったよなぁ・・。

軽井沢で降りて鈍行に乗り換えもよかったかもしれない。」


 そう呟いて、また景色を見る。

晴天で雲一つなく、目の前の山が青空をバックにくっきりときれいに見える。


 「それにしても、えらい目にあったなぁ・・。」


 そう拓也は呟いて昨日の事を思い出した。

昨日、同僚の伸也と飲みに行ったのだ。


 伸也と飲みに行ったのは、急な仕事の引き継ぎが原因であった。

課長命令で急な引き継ぎを伸也にしたのだ。

そのため今、拓也は疲労困憊した状態である。


 引き継ぎだけなら疲労困憊などしない。

疲労困憊の原因は、伸也が業務中に美智子さんの事を根掘り葉掘り聞いてきたのが原因だ。

聞いてくるたび話題を変えたり、とぼけたりした。

それを何気なくするために、頭をフル回転させたのだ。

はっきり言って仕事でもこんなに頭を使ったことはない。

つまり仕事以外による疲労困憊である。


 なぜ美智子さんの事を伸也に話したくないのか。

それは美智子さんが巫女であるからだ。

彼女は美人でスタイルも良く、いつも巫女装束姿を着て背筋がピンとしていて凜々しい。

ただ拓也以外の一般の人には巫女装束がスーツに見える。

もし伸也が巫女装束の美智子さんをみたなら悶え死んでいただろう。

残念だったね、伸也。ご愁傷様。


 まあ、何はともあれ美智子さんの素性、そして美智子さんと俺の繋がりを伸也に話す気などない。

話せば神様の事を話さなければならず、正気かと疑われるだろう。

だから伸也に美智子さんの事は話す気などない。


 幸い功を奏して、引き継ぎをしていた時は美智子さんのことをノラリクラリ躱す事ができた。

だが、引き継ぎが終わったその日、やっかいな事となった。

俺が美智子さんの情報を隠したのは、俺の彼女だからだと変な確信をもたれてしまったのだ。

そしてそれを周りに言いふらそうとしたのだ。

まあ、俗に言うモテない男のヒガミが爆発したのだ。


 もし美智子さんが俺の恋人だったならばほっといたであろう。

そして、周りに聞かれたたら堂々と恋人宣言もしたと思う。

それを聞いた伸也がどういう顔をするか見物であったかと思う。

だが実際は恋人でもなんでもない。

美智子さんにとって、恋人などと言われるのは傍迷惑はためいわくな話しであろう。


 だから伸也の誤解を解くために、昨日飲みに誘ったのだ。


 伸也はオダテに弱く、女性だと見境無く口説く。

だが彼女いない歴は生まれてこの方あったという話しは聞かない。

可哀想な奴だ。

まあ、人のことは言えんけど。


 で、酒が大好きだ。

だが酒に弱い。

なぜ酒が大好きなのに弱いのか、世界の七不思議と言えるだろう。

そう、不思議発見の世界だ。


 そして、これが重要だ。

あいつは酒を飲むと暗示にかかりやすいのだ。

特異体質だ。

変体と言ってもいいだろう。

変態、ではないよ?

それだと女性を襲ってしまう。

体質が変な、という意味の変体だ。

ただ暗示は酒さえのめば誰からでも暗示にかかるわけではない。

心を許した者と飲んだときだけというセーフティロック付きである。

 

 これで、おわかりだろうか?


 だから昨日、伸也を酒に誘い飲ませたのだ。

そしてと俺の彼女でないことを言い聞かせた。

それと彼女は開発部門にいるが、邪魔をしてはいけない。

訪問しても彼女の事は聞かない、誘わない、と暗示をかけた。


 まあ、おそらくこの暗示は効いたと思う。

これで問題はない。

大丈夫だ。

・・たぶん、大丈夫だ・・。

・・大丈夫だよね、伸也君?


 だけど何で俺は美智子さんの事でこんなに伸也に振り回されなければならないんだ?


 本来なら美智子さんは仕事先の人だという事だけで、伸也は納得しそれで済んだはずだというのに。


 ああ、そうか・・

あのタコ課長がいけないんだ。

別件の業務を俺に振ったのが原因だ。

そのため伸也に美智子さんがいるといった会社の案件を引き継がせることになったからだ。

だから、あのタコ課長がいけない。

うん、そうだ。


 あれ?

ん?・・待てよ? これって・・ん?。


 おかしくね、これ?

これって神様が悪いんじゃね?


 そもそも神様の御神託に関わる雑用を行っている俺に、美智子さんがアドバイスをしに俺に会いにきたんだよね?


 で、もってそれを伸也に見られた。

で、伸也に美智子さんとかかわらないように上手く俺は嘘を言っておさめた。

それで解決をするはずだった。


 なのに、だ・・。

あの神様が俺に用事をいいつけるため、急な案件で出張をするように仕向けた。


 だからあのタコ課長が伸也へ俺の仕事を押しつけ・ゴホン!

仕事を引き継がせた。

それにより俺は苦労をしている。


 やっぱ神様が悪いんじゃん!


 間違いないよね?

うん、どう考えても元凶はあの神様じゃん。

俺は被害者だ。


 なのに、俺は伸也に酒をおごって事を丸くおさめた。

それに引き継ぎ時に美智子さんのことを、ノラリクラリ躱すのに疲れ果てた。

それらは俺のせいではない。

断固として違うと主張する。

青年の主張で主張してもいいほどだ。


 あの神様、もしかして疫病神なんじゃね?

うん、疫病神に違いない。

そう結論付けた時だ。


 『お前、いま失礼なことを考えたであろう。』

 「ぎゃっ!」


 拓也は突然の声に悲鳴を上げた。

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