第35話 巫女・美智子 拓也に神を説く その5

 美智子の話はさらに続く。


 「彼は今流行はやりの画像を投稿する趣味があったようです。」

 「えっと、ユーチューバーかな?」


 「さあ、私にはよく分らないのですけど・・。

 なんでも動画をとって、とかに載せていたとか。

 その日、本殿で自分の様子を撮影していたようです。

 氏子うじこの方達が、地鎮祭の後に本殿でカメラを見つけました。

 持主を特定するためにも、ビデオを再生したようです。

 そして、それを見てあきれました。

 ご神体の岩に昇りVサインを出した映像が残っていました。

 さらに、あろうことかご神体の上で、お酒を。

 それも・・、その、あの・・・

 下着だけの姿で・・。」


 美智子はそういうと顔を真っ赤にする。

うん、男性に免疫がないのは知っている。

だから、こういう反応になるんだろう。

だが、恥ずかしがる姿がまた可愛い・・・。

って、いかん、いかん、煩悩ぼんのうを払って話しをきかないと!

そう思い、美智子に拓也は聞く。


 「それが原因で、その時に天罰が?」

 「いえ・・。天罰は地鎮祭の時です。」

 「え? じゃあ天罰は龍神様?」

 「はい・・、でも、龍神様が与えなければ恐らくは・・・。」

 「・・・。」


 「地鎮祭当日、神主は二日酔いで行っていたようです。」

 「えっと、二日酔いで天罰?」


 「いいえ、違います。

 まあ二日酔いも要因なのでしょうね・・。

 村人への聞き取り調査で分ったことなんですけど・・。

 地鎮祭も呂律があやしい感じで、地元有力者も眉をしかめていたとか。

 地鎮祭が終る頃、にわか雨になったようです。

 雨の中、なんとか地鎮祭が終りました。

 そして、地鎮祭の後片付けが終ったあとに天罰は下りました。

 人々は後片付けが終ると散会し、その場から離れました。

 ほとんどの人が居なくなった時です。

 氏子の人が帰り際、池を振返ったそうです。

 神主は池の端で、池に唾を吐き、そして・・その・・・あの・・。」


 「?」


 「あの・・、男の方がたまに、その・・。」

 「ん?」

 「お、屋外で用を足される・・その、それを池に向って・・。」

 「な!! 龍神様の池に?」

 「は、はい・・・。」


 美智子は顔を真っ赤にしながらも、天罰について話す。

健気である。


 「その、あの・・、用をたされているその時・・。

 突然、篠突く雨しのつくあめになり前が見えなくなったそうです。」

 「・・・。」


 「氏子の方も、慌てて家に帰ったそうです。」

 「豪雨で濡れるのが天罰?・・ですか?」

 

 「いえ・・。

 翌朝、村人が散歩で池にいったそうです。

 そして、岸辺で神主を見つけました。

 その時には既に亡くなっていたそうです。

 死因は落雷による心臓麻痺でした。

 警察では足を滑らせ池に落ち、落雷にあったと処理しました。

 二日酔いで足を滑らせ池に落ちたとの結論だったようです。

 ですが、氏子の方が見かけた様子や、ビデオから私の部署では・・。」


 「・・・。」

 「天罰だと。」

 「・・・。」


 拓也は押し黙った。

たしかに神主がバイトとはいえ神社関係者である。

神様をよくわかっているはずだ。

そして、ご神体に対するビデオはやり過ぎだと思う。

ましてや龍神様の池に立ちションなどと、しかも唾を吐いて・・・。


 でも・・・とも、思う。

彼は龍神様の池だとは知らなかったと思う。

確かにマナーが悪すぎる。

しかし、立ちションを池に向ってやる者は希に居るだろう・・。


 天罰が落雷による死亡・・とは・・。

もしかして龍神を見たのだろうか・・・。


 美智子は拓也の考え込む様子を見ながら話す。


 「拓也さん、理不尽だと思いますか?」

 「え?・・あ・・うん。」

 「地鎮祭を行うとき、本来神主はどういう土地か調べます。」

 「え? そうなの?」


 「はい。

 それを怠っています。

 また、ビデオを調べると奏上した祝詞のりともいい加減なものでした。

 それでは神様は土地を人に気持良く貸せるわけがありません。

 それに龍神様は地鎮祭後、池が埋立てられるのを知ったのです。

 人は約束を反故した上に、さらに池を埋立てるのです。

 私は龍神様がよくお怒りにならなかったと不思議なくらいです。

 池への、その、・・殿方が、その・・行った件ですが・・、

 もし、一般の方なら許されたかもしれません。

 ですが神に仕える者は別です。

 本来、神を敬い、神に仕える者です。

 天罰が与えられるのは当然の事ではないでしょうか?

 天罰を拓也さんがどう思うかは自由です。

 これが男巫が神の怒りに触れた私が知る天罰です。」


 拓也は毅然とした態度で話す美智子に、すこし背筋が寒くなった。

冷徹に思えた。

だが、首を横に振る。

彼女は神に仕える者だ。 

それに神が人に優しいなどと誰が決めたのだろう。

神は自然の恵みを与える反面、人から奪うこともあるのだ。


 それに龍神様・・・

直ぐに天罰を下さないだけ、温厚な神様だったのかもしれない。


 「ねえ、美智子さん。

 その龍神様は池が無くなってどうしたの?」


 「この件の調査に行った霊能力者が、神社の屋根にいた龍を見たそうです。

 名残惜しそうに見ていたということです。

 池と神社が気に入っていたのでしょうね。

 しばらくして龍神様と霊能力者が目が合ったそうです。

 水神様は何も言わず頭を天に向けると昇っていったそうです。

 おそらく天界に戻ったのでしょう。」


 「そうなんだ・・。

 会ってみたかったな・・。」

 「いつか会えますよ?」

 「え?!」


 美智子のその言葉に、一瞬固まった。

美智子さんによると、御神託で水に関わるものは龍神様が多いらしい。


 いや、ちょっと龍神様は怖い、かな?

この話しを聞いた後だ。

暫くは会いたくはないかも・・。


 そう思い、思わず及び腰になる拓也を見て美智子は笑う。

何度見ても素敵な笑顔だ。


 まあともかくだ・・。

神様を絶対に怒らせないようにしよう。

そう誓う拓也であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る