第33話 巫女・美智子 拓也に神を説く その3

 「宗教法人は、宗教の法人ですが収益を求めます。

 人は霞を食べて生きれるわけではないのですから仕方ないことです。

 ですから御喜捨や、何らかの事業で利益を得ることは神様も関与しません。

 ただ、この宗教法人は色々と問題を起しました。

 法外なお布施を住民に要求し、要求に応じなければ祭事に差別を付けたのです。」


 「え? 例えば冠婚葬祭や、地鎮祭などでの嫌がらせ?」

 「はい・・。」

 「そんなの宗教法人として許されないでしょう?」

 「そうなんですが、なぜか問題視されなかったようです。」

 「そんな馬鹿な!」

 「す、すみません・・。」

 「あ、いや、美智子さんに言ったわけでは・・。」

 「神社に携わる者として申し訳ないと・・。」

 「あ、いや・・ごめん、感情的になって・・。」


 素直に謝る拓也に、困った顔をしながら美智子は首を横に振った。


 「あの・・、話しを続けても?」

 「あ、うん。」


 「あるとき神社が所有している敷地の一角の売却話が出ました。

 県の有力者が神社に隣接した土地をリゾート開発するために購入したんです。

 ですが、僅かにリゾートにするには土地が足りず譲渡を求めたようです。」


 「へ~、神社は所有する土地を売ることができるんだ。」


 「売却自体は手続きを踏めばできるようです。

 その売却地は、社殿に隣接した森の端だったそうです。

 参拝道に対し社殿の後ろであり、また社殿からかなり離れた場所だったそうです。 ですから売却に問題が無いと思ったのでしょう。

 しかし、その売却地には湧き水が出る池があったんです。」


 「ええと・・、神社の森の外れで、他の土地と隣接している池でしょ?

 重要な池なら社殿の近くや、畏れ多いとばかりに厳重に保護されているでしょ?」


 「いにしえよりあるけれど寂れた町の神社です。

 予算などの関係もあったのでしょう、池の周りは整備されていなかったようです。

 縁起録と古文書を調べれば、池の神聖さが分かったはずなんです。

 もともと神社を建てた理由が、その池のためだったのですから。」


 「え? でも場所的には社殿のはずれも外れでしょ?」


 「昔、その池の周りは原生林だった場所です。

 ですからその池に行くための道を塞ぐように神社を建てました。

 神社は結界を張り、不浄な物が道を通り池に行かないようにしたのです。

 しかし時代とともに神社近隣が開発されたんです。

 池に隣接した土地は開発され畑となりました。」


 「つまり、その池は今は神社を通らなくてもいける場所なんだ。」

 「ええ、そして神社にはもう一柱の神様がいるのです。

 池よりも後の時代のことです。

 神様が降臨したという神聖な岩を祭っているのです。

 その岩は本殿の近くにあります。

 時代が経るに従い、池よりも岩に降臨した神様が主神となりました。

 やがて池の神は忘れ去られたのです。」


 「えっと、あれ?」

 「?」

 「いや、その池の神様が怒って天罰を与えたのかな、そう思ったんだ。

 だけど、忘れ去られる神様ならそれはないか・・。」

 

 その言葉を聞いて美智子の顔色が変わる。

そして厳しい口調で拓也を叱咤しったした。


 「拓也さん!」

 「え?!」

 「神様に不敬はお止め下さい!」

 「あ・・・、いや、不敬・・に、なっちゃうの?」


 拓也の言葉に美智子は唖然とし拓也を見つめた。

やがて、信じられないという顔をしたあと視線を落す。


 そして短い溜息をついた。


 美智子は一度深呼吸をする。

そして、諭す口調で拓也に話しかけた。


 「拓也さん、本当に神様と接するときは気を付けて下さい。

 神様なのです、人ではないのですよ?」


 「え、あ、うん・・。」

 「言葉には力があります、言霊です。」

 「?」


 「一度、口に出すと消すことはできないのです。

 神は人の会話ではなく、言霊を受け取るのです。

 それは、人の感情、思いです、思念とでもいいましょうか・・。

 ですから、なにげなく言ったつもりが、本心を伝えてしまいます。」


 「え、でも、先ほどのは単なる感想で・」

 「それがいけないのです。」

 「?」

 「あなたは勝手に神様に順序をつけていたんですよ?」

 「え!?・・。」


 拓也は美智子の言葉にポカンとした。

俺、神様に順序なんか付けていないよね?


 そう思いながら考える。

今、俺はなんと言ったっけ?

・・・。

確か・・、忘れ去られるような神さまなんだ、そう言った。

・・・。

そうか、忘れられたのだから、たいしたことの無い神様だと思ったかもしれない!

それも、無意識に。

安易に感想を言ったつもりが、確かに神様に対し失礼な言葉だ。


 美智子の指摘で気がつかされた。


 その美智子は、拓也に神々のことを話してきかせる。


 「古来より人々は生活に必要なもの、畏れるものに神様を見いだしました。

 そのため日本には八百万の神様がいます。

 そして神様には、それぞれの役割があるのです。

 欠けてよい神様なんておりません。

 ましてや人が神様に優劣をつけるなんてもっての他です。」


 「・・・ごめん。」


 拓也の反省している顔を見て、美智子はホッとしたようだ。


 「分っていただけましたか?」

 「・・はい。」


 「拓也さんには悪気はないことは分ります。」

 「・・・。」

 「でも、人は自分でも気が付かない本性があるのです。」

 「・・・。」


 「神様は、本性全てを否定はしていません。

 人は誰でも頭の中で悪いことを考えるからです。

 普通は考えるだけで、それを必ずしも実行はしないのです。

 分りますか?」

 「・・うん。」


 「そして言葉なのですが・・。

 人は言葉にして自分を表現したり、相手に伝えたりします。

 さらには人を自分の思うようにしたくて言葉を出します。

 言葉は考えていることを隠し、相手を騙す道具でもあるのです。」

 「・・・。」


 「ですが、神様は口から出された言葉ではなく言霊を聞きます。

 言霊には、その人が言葉にしたときの本性が乗せられているのです。

 先ほど不注意で口にした言葉は、神に優劣をつけ神を貶める言霊です。

 分って下さいますね。」

 「はい。」



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注意

 宗教法人、お寺、神社、および僧侶、神主の方々についての記載はあくまでも小説であり架空物語です。

 空想です、そして、当方はこれらの知識が全くありません。

 決して宗教法人や携わる方々を誹謗中傷するものでないことをご理解下さい。

 実際の話しではありません。

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