第30話 巫女・美智子 拓也と神に驚く

 美智子みちこ拓也たつやにポツリと話し始めた。


 「今回は自然災害と、人による災害防御の破壊が原因です。」

 「あ、うん、それは分かった。」

 「拓也さん、これに懲りずに私達に今後も協力していただけますか?」

 「う~ん・・、それは言われなくてもせざるを得ないんだけどさ。」

 「?」


 「なあ、神様、聞いているんだろう?」

 『神を気安く呼び出すなと言っておろう?』


 拓也にこたえる猿田彦大御神さるたひこのおおみかみの声を聞き、美智子が目を見張る。


 「あ、あの、猿田彦大御神様でいらっしゃいますか!」

 『そうじゃ、其方そなたのことは存じて居る。』

 「おそれ多いことでございます。」

 『其方そなたの活躍は他の神からも聞いて居る。ご苦労であった。』

 「いえ、そのような勿体もったいないお言葉を・・。」


 「へぇ~・・、美智子さんがかしこまるってことは、猿田彦大御神ってやはり偉いんだね。」

 「拓也さん!!」


 美智子はあまりにも神への不敬な言葉に驚き思わずさけんだ。


 『よいよい、巫女よ。 此奴こやつはそういう奴じゃ。』

 「・・・。」


 美智子は猿田彦大御神さるたひこのおおみかみの応答に、あんぐりと口を開けた。

それはそうであろう、神を敬いうやまい畏れおそれている巫女みこである。

それなのに拓也は神に対しため口であり、神様を敬っているように見えない。

それに対し猿田彦大御神もそのような拓也をとがめようともしないのだ。


 「美智子さん、この神様がさ、御神託ごしんたくをしないならご加護かごを与えないっていうんだ。」

 『当然であろう。』

 「だからさ、ご加護が無くなって不幸になるのがいやだから美智子さん達への協力はせざるを得ないわけ。」


 『其方そなた、まだやっておるのか?』

 「う~ん、ではあるけど、御神託は真剣に行っているかな?」

 『ならばよい。』


 美智子は、この一人と一柱の会話を呆然ぼうぜんと聞いていた。

そもそも御神託をやる巫女みこ男巫おとこみこなど聞いたことがない。

それも、神様の前で堂々と御神託に取りかかるなどと言うなんて。

普通ならば、神から罰が下っても可笑しくはない。

美智子が呆然となるのも当然である。


 その美智子が、この一人と一柱の会話にすまなそうに割り込んだ。


 「あ、あの・・猿田彦大御神さるたひこのおおみかみ様・・。」

 『なんじゃ?』

 「先ほど、何故私にも猿田彦大御神様の声を聞けるように、その・・。」

 『それはな、此奴こやつに教育をして欲しいからじゃ。』

 「?」

 『此奴こやつ弥生やよいから神への接し方を聞いたはずじゃが、危なっかしいにも程がある。』

 「?」

 『わしにならともかく、他の神にため口をして怒りを買ったなら、儂も困る。』


 猿田彦大御神のこの話しに拓也がクレームをつけた。


 「あのさ、他の神様に対しては失礼がないようにしているつもりだけど?」

 『長田神社ながたじんじゃ稲荷大明神いなりだいみょうじんに対して取ったあの態度でもか?』

 「え? なんかやったっけ? 俺?」

 『稲荷大明神から怒りを買ったであろう。』

 「え?・・・。

 あっ!・・そういえば挨拶の時にちょっとあったような・・。」


 『お前は弥生から注意を受けていたのに、稲荷大明神を怒らせておる。』

 「え~っと、あれ? 弥生さんから稲荷大明神の接し方については注意を受けたけど、その前に受けていたっけ?」

 『其方そなた迦楼羅天かるらてんの時にも、弥生から注意を受けていたであろう?』

 「え? あれもカウントに入るの?」

 『当たり前であろう。』

 「それを言われると、そう・・かもしれないけど? すみません。」


 『巫女みこよ、こういう奴だ。

 此奴こやつにすまぬが神と接するときの態度について説教をしてくれ。』

 「わ、私がですか!」

 『そうじゃ、此奴こやつわしより、巫女みこ達の話しをよく聞く。』


 この言葉を聞いて拓也が真っ青になる。

冗談じゃない、俺が女性が苦手だと神様知っているよね!と、心で叫んだ。

そして・・


 「ちょ、ちょっと、待って神様! 反省しました、しましたから!」

 『そういうわけで後は頼んだ、巫女よ。』

 「あ! 待て! いや待って下さい! 神様、心を入れ替えたから!」


 この拓也からの哀願に猿田彦大御神はこたえない。

応答を期待して、拓也は耳をすます。

しかし応答はなかった。


 「あれ、神様?」


 「え? あれ?」


 拓也の様子を見ていた美智子は、申し訳なさそうに声をかける。


 「猿田彦大御神さるたひこのおおみかみ様は、もうこの場から去られておりますよ、拓也さん。」

 「え? そうなの?」

 「はい。」


 その言葉を聞いて呆然とする拓也であった。

そして頭を抱えた。

美智子さんと二人で神様についてのレクチャーを受けなければいけないのか・・。

まずい、これは不味いぞ!

仕事が忙しくないとはいえ、定時で帰れる状態ではないのに・・。

どこでレクチャーを受けんだよ?

それにこんな美人を前にしてレクチャーなんか受けたら、俺が持たない。

まともに目を合わせられるわけないだろう! 神様!


 思わず拓也は溜息を吐いた。

それに気がついた美智子は・・。


 「あの・・拓也さん、もしかして先ほどの教育の件で・・。」

 「あ、いや、あの、その・・。」

 「私では不十分だと思いますけど・・。」

 「いや! 違うんだ、そんなことは思っていないから!」

 「え?」


 拓也は美智子に嫌な思いをさせたかと反省をした。

そして話しを誤魔化そうと懸命になる。


 「そういえば、美智子さんも巫女だから、猿田彦大御神が居なくなったことが分かるんだよね?」

 「え?」


 美智子が驚いた顔をした。

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