第24話 稲荷大明神からの御神託

 弥生やよいは稲荷神社に戻る前に拓也たくやに話しかけた。


 「御神託ごしんたくによっては、一度では終わらないこともあります。」

 「え? 今日だけで終わらないこともあるの?」

 「はい。」

 「げっ!・・、困るな、それ・・。」

 「できるだけ私達の部門だけでできるようにしますが・・。

どうしてもダメな時は、すみませんがお願いするとご理解下さい。」

 「あ、うん・・。わかった。」


 拓也は今、仕事を抱えていた。

そのため有給はあるが、休める状態ではない。

しかし、いざとなれば、ずる休みにすると決意を固めた。

いや、開きなおった。


 「では、稲荷神社に戻ります。」

 「あ、うん。」


 そして、階段を上るのに、先ほどと同じように息を切らせた拓也だった。


 「お待たせをしてすみません、稲荷大明神様。」

 『うむ。』

 「御神託をお聞かせ下さい。」

 『台風による自然災害が近々起こる。』

 「え? はい!」

 『このところ人間が開発という名目で地形を変えすぎた。』

 「はい。」

 『そのため地脈が乱れておる』

 「・・・。」


 『台風が上陸をした場合、風神の神威に呼応し地脈が暴れるだろう。』

 「それでは地脈を押さえる結界を張れということでしょうか?」

 『そうだ。もし、そうせんと河川が氾濫をし農作物に被害がおきるであろう。』

 「わかりました。」

 『では、其方に任せた。』

 「承りました。」


 そういうと弥生は静かにはいの姿勢を取る。

その様子を見て、慌てて拓也も同じ姿勢を取った。

拓也が、そのままジッとしていると弥生から声がかかった。


 「あ、あの、拓也さん、もういいですよ?」


 その言葉にはっとして姿勢を戻すと同時に プハッ! と息をする。

ゼーゼーと慌てて呼吸をととのえる。


 「あ、あの・・。」

 「ちょ、ちょっと、ま、待って!」


 ゼー、ゼー・・ゴホッ! ゴホ、 ゼーゼー。

そう、拓也は息を殺してはいをしていたのだ。


 「あの、拓也さん、もしかして息を止めていました?」

 「ゴホッ! ゲホ、あ、う・・うん、ゲホ!」

 「あの、息まで止める必要はないですよ?」

 「ガハ、ゲホッ! そ、そうな、ゲホ、そうなんだ・・ゲホ!」


 弥生は呆れた顔で見ていたが、やがて拓也に謝った。


 「あ、あの、済みません。神様の怖ろしさを強調しすぎたようです。」

 「ゴホ・・、あ、いや、ゲホ、そんなことないよ、君のお陰でよく理解できた。」

 「・・・。」


 弥生は拓也が落ち着くのを待った。


 「あの、拓也さん、あまりよくはないのですが、神様に話すときは今までどおりでよいかと・・。」

 「え? いいの?」

 「ええ、ただし、御神託に対する不満や、やりたくないということを、言葉にしたり、心で思わなければ・・。」

 「そ、そうなの?」

 「はい。」

 「分かった。それだけでも助かる。」

 「・・・・はい。」


 「ところでさ・・。」

 「なんでしょうか?」

 「さっき神様は任せたと言ったが、何をどうするか言わなかったけど?」


 拓也はそれが気に掛かっていた。

前回もそうなのだが、具体的は事を言わない。

なぜ弥生は分かるのだろうか?


 「それは私にイメージとして与えるからです。」

 「イメージ?」

 「はい、神様は言葉と同時に映像を私に見せるのです。」

 「え? 俺、見てないよ?」

 「あ、それは巫女だけに見せるようです。」

 「そ、そうなの?」

 「はい。」

 「・・・。」


 はぁ、まただ。

だったら男巫おとこみこの俺なんかいらないじゃん?

そう拓也は思った。


 「それで、今回の御神託は1回では終わりそうも無いです。」

 「え? それじゃ、また別の日に来なくちゃいけないの?」

 「あ、それは私の部門でなんとかなりますので、拓也さんは大丈夫かと。」

 「あ、助かる! ありがとう。」

 「え、ええ。 ただ、これから少し手伝いをお願いします。」

 「分かった。何をするの?」

 「そうですね・・、今回は拓也さんに練習もかねて、簡単な場所をやっておきましょう。」

 「?」

 「結界を河川に施します。」

 「へ? 結界? まるでSFかなにかの陰陽師みたいだね?」

 「いえ、それです。」

 「・・・。」


 「結界は霊力を使いますので、巫女一人が一日でできるのは1カ所だけです。

ですので今日は1カ所、そして拓也さんにわかりやすくできる場所で行います。」

 「あ、ありがとう・・、で、でもさ、男巫が必要なの?」

 「え? はい。居なくては困ります。」

 「そ、そうなんだ・・。」

 「おそらくですが、猿田彦大御神さるたひこのおおみかみ様は拓也さんに経験させるために私と一緒にしたのではないでしょうか?」

 「げっ! あの神様め!」

 「?」

 

 「あの・・、先ほどもお聞きしましたが、本当に猿田彦大御神様は何も拓也さんには?」

 「うん、あのずぼら神様は、終末に長田神社ながたじんじゃに行け、としか言っていない。」

 「そうですか・・。」


 弥生は改めて拓也と猿田彦大御神の関係に悩んだ。

これだけ拓也が猿田彦大御神に、ずぼらな神とか、あの神様めとか、悪態を吐いても、猿田彦大御神は全く気にしない。

普通ではありえない。

それに神社関係者でない人を男巫にしておきながら放置して弥生とばかり組ませる。

訳がわからなかった。

弥生は拓也の顔を見つめていた。

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