第15話 弥生の生い立ち

 弥生の家は先祖代々神様に仕えていた家系で、母は御神託を授かる巫女だった。


 そのような家に生まれた弥生は、物心がつく前から神様の声を聞いていた。

その頃の彼女は、神様という存在があまりにも身近で、親族との区別がつかないくらいだった。


 そんな弥生が言葉を話せるように成長した。

 言葉は話せるようになったと言っても、神様を理解できるわけがない。

そんな幼い彼女が、独り言のように神様が弥生に話した事を母に話した。

その話を聞き、母は驚き、そして喜んだ。

巫女である母は、間違いなく弥生が話したことは神様の言葉だと分かったからだ。


 それから弥生は巫女として、教育を受け、修行をすることとなった。

修行は厳しいものであったが、辛いと思ったことはない。

幼稚園や小学校の頃は遊びたいさかりであるが、一人、神様と向き合って修行をする方が好きだった。


 そのため、一般の人から見ると変わった子であり、普通の学校ではいじめにあっただろう。

しかし、彼女が育った戸隠は、神道が根強い特殊な環境だった。

そのため、虐めなどするような子はおらず、巫女となる子はそのような者だと理解していた。


 それでは一般の子と友達になれたかというと、友人と呼べる子はいなかった。

そのかわり、古来からの神社関係者の子は巫女修行を理解しており、そのような子供達が彼女の理解者であり友人だった。

つまり、彼女の世界は、神様に関係した人ばかりだった。

それも神社関係者といっても、御神託を受ける本来の巫女がいる神社という、非常に狭く、一般人には理解できない世界である。


 つまり、言い方を変えれば、弥生は巫女のエリートとなるべく育てられ、そのように育った。

普通、巫女は自分の家が祀る神様からの御神託だけを受ける。

しかし彼女は1柱の神様だけというだけでなく、複数の神様から御神託を受けていた。

これはひとえに修行のたまものである。


 そんな彼女を神社庁がほっとくわけがない。

16歳のときに神社庁に請われこわれて入庁した。


 そして弥生は御神託を承っては、その御神託を滞りなく実行していたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る