第14話 弥生の帰宅
東京にある神社庁配下の職場である。
この職場は、優秀な巫女を選び配属した機関だ。
この機関での仕事は巫女の裁量に任されている。
とはいえ、仕事のほとんどは御神託だった。
御神託を受けた巫女は、その御神託を実行するための交通費などの費用、および御神託実行のための調査費などが、この機関から支給される。
そのため巫女はお金の心配はいっさいせず、御神託に専念できていた。
このように巫女を優遇するのは、隠れた国策、いや、天皇家から委託されたからだ。
御神託は国の安寧さえ左右する重い仕事だと考えれば納得できるだろう。
この機関は選ばれた巫女が多数在籍し、能力は均一ではなかった。
そもそも巫女の能力は努力して得られるものではなく天性のものだ。
そして、その天性も生まれてから磨かなければ宝の持ち腐れとなる。
また、無駄に努力しても意味がない。
天性と、生まれてからの個人の気質、気概、慈愛により能力差はうまれる。
もちろん修行による精神の統一と、精神力が基本だ。
そのため神社では巫女に対し修行などを教え能力の向上をはかる。
そして言葉にするまでもないが、神への畏怖、感謝、奉仕の気持ちが有ってこそだ。
そのような優秀な巫女のなかでも、弥生は能力、対処力は他者に比べ秀でていた。
弥生が鼻面稲荷神社での仕事を終え、職場に戻ったのはレポートを書くためだ。
レポートは御神託を受けてから対処が完了するまでの報告をまとめたものだ。
このレポートと、掛かった費用の精算書を神社庁に提出する。
この点は普通の会社と変わりはない。
弥生にとって、レポートも精算書を書くこともルーチンワークとなっており、そう時間はかからなかった。
レポートと、精算書を持って上司に報告を行った。
上司も弥生の優秀さ、真面目さ、謙虚さを評価しており、すんなりと受け入れた。
仕事を終えて自宅に帰ってきたのは22時をまわっていた。
弥生は神社庁が借り上げたマンションに住んでいる。
セキュリティーのしっかりしたマンションだ。
職場も巫女の無防備さに配慮したようだ。
部屋はセントラルヒーティングになっている。
そのため、仕事から帰ってきても寒い思いはしなくてもすむ。
マンションに戻ると巫女服から部屋着に着替えた。
さすがに巫女とはいえ、自室では可愛らしい部屋着になる。
シャワーを浴び、リビングのソファーで横になる。
疲れた・・・。
体の疲れもあるが、精神的な疲れもあった。
ソファーで、今日一日の出来事を振り返る。
拓也と雪里の会話、そして拓也が出した結論・・・。
いつのまにか額に皺を寄せていた。
なんだろう、この、もやもやとした感情は・・。
ため息が出た。
今まで、このようなことはなかった。
いつも御神託を実行した後は、次の御神託にそなえ意識しなくても平常心になっていた。
それなのに、今日は、もやもやした感情が消えない。
こんな事は始めてだ。
このような状態では、御神託を受けられないか、受けたとしても問題が発生するかもしれない。
そんな事はあってはならない。
その部屋は瞑想に使っている部屋で深閑としている。
部屋の真ん中で
瞑想で平常心を取り戻そうとした。
しかし、瞑想に入る前に、ふと不安が
瞑想で、このモヤモヤした気持ちが解消されるだろうか?
その疑問に対し、瞑想以外の解決策も考える。
・・・。
たぶん・・だけど・・。
そう自分を納得させた。
考えることをやめ目を半眼にし瞑想に入る。
やがて無の境地に至った。
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