第12話 神の見解

 神様は拓也に問いかけた。


  『何んぞに聞きたい事があったのではないのか?』


拓也「あ、ああ、そうなんだけど・・」

  『なんじゃ?』

拓也「雪里さんが看護師になるには、巫女を辞めるしかないのか?」

  『神の仕事をしたくないということか?』

拓也「違うって!

  神様のご加護がなくなっていいなんて思う人はいないって!」

雪里「あ、あの! 拓也さん、私は神様のご加護については覚悟しております。」

拓也「雪里さん! ちょっと黙っていて。」

雪里「は、はい・・」


 拓也は雪里を黙らせて、そして雪里に微笑んだ。

雪里は俺の笑顔に戸惑いながら、黙って俺と神様の話を聞くことにしたようだ。


 雪里は巫女だ。

看護師になることで、神のご加護がなくなるのは当然と考えているはずだ。

ただ、雪里は幼少の頃より神様を崇拝し、畏怖し、心から仕えていた。

それが祖母の死で自分の人生を考え看護師になろうとしている。

それも、あんなにも悩んで自暴自棄みたいになって・・・

でも、それじゃあダメだと拓也は思い、神に対しある決意をした。

雪里や弥生のようにおのれの全てを神の奉仕にあてていない自分だからこそ神に言えるのでは、と思い・・

ただ・・自分への神のご加護が無くなるのは、できれば避けたい、避けたいのだけれど・・


 心の中で深呼吸をし、神様に話し始めた。


拓也「雪里さんが神のご加護をなくさず、看護師になる方法はないのか?」


  『本来の巫女というなら無理じゃのう・・』


拓也「!? 本来の巫女?・・・・・

  え? 待って! ひょっとして普通の神社に勤めている巫女のような勤め方ならできるっていうこと?」


  『お前はバカか?

  雪里は既に巫女も同然。

  一般人の社務所に勤める巫女とは格が違うのじゃ。』


拓也「バカって・・

  まあ、そうかもしれないけどさ・・

  じゃあさ、看護師になれる道は?」


 『まあ、聞け。

  雪里は生まれたとき、神から霊力を授かっておる。

  霊脈を見て、鎮める能力じゃ。

  これは雪里の祖母の功績を鑑みて、神が雪里に与えたものだ。

  わしらは雪里が巫女となることを自然のことわりとしておる。

  本来なら、巫女を辞めるということは、霊力を神に返し、また神の恩恵もいらないということじゃ。』


拓也「それが本来の巫女を辞めるということだというのは、バカな俺でもわかる。

  じゃあ、本来の巫女でない巫女に雪里さんがなるとして、それは?」


  『霊脈の管理のみを行う巫女になるということじゃ。

  その場合、看護師になっても構わんし、神の恩恵も今まで通りじゃ。』


雪里「えっ? でも霊脈管理以外の巫女の勤めは・・」

  『不要じゃ。だから本来の巫女ではなくなると言うておる。』


拓也「でも、神の加護はある・・」


  『そうじゃ。

   そして当然、雪里に与えられた霊脈管理は勤めさせる。

   この場合、巫女同士の会話くらいはできるが、それ以外の能力は無くなる。』


拓也「どう? 雪里さん?」

雪里「え?! あの・・、もし、そうなれたら嬉しい・・。

   でも・・・周りが巫女で無くなるのを許してくれないと思う・・」

拓也「俺が周りを説得するよ・・。

  周りは霊脈管理が重要なだけだろう?、・・まあ、なんとかなるさ。」

雪里「え! 説得して頂けるの?」

拓也「もちろん。君一人じゃ、説得は難しいだろう?」

雪里「あ、有り難う御座います・・・

  でも、いいの?・・ 看護師になっても?」

拓也「そう神様がいってるから、いいんじゃない?」


 その言葉を聞いた雪里の頬に、やがてしずくが伝わって落ちた。

雪里は、それを合図にしたかのように両手で顔を覆い、泣き始める。


 俺も弥生も何も言わずに、雪里が泣き止むのを待った。


雪里「ご、ごめんなさい・・私・・」

拓也「いや、謝ることなんてないよ、よかったね雪里さん。」

雪里「ありがとう、拓也さん。」


 弥生は雪里を見ながら問いかけた。


弥生「巫女でなくなるのよ? いいの?」

雪里「うん・・」

弥生「そう・・それなら、いいわ。

   私には考えられないことだけど・・」

雪里「・・・」


 雪里は弥生の言葉に少し複雑な顔をした。

しかし、自分が決めた看護師になるという目標の方が大きいのだろう、直ぐに表情が和やかになる。


拓也「で、神様、雪里さんは具体的にどうすればいいんだ?」

  『お前が、それを聞いてもわからんじゃろうて。』

拓也「あ、そうか、確かにね。」

雪里「あはははは・・拓也さん、可笑しな人!」


 雪里から聞く初めての笑い声だった。

 それも、心から滲み出る、心地よい笑い声だ。


拓也「よかったな、雪里さん。

  俺も君の笑い声が聞けてよかったよ。」


 雪里は、はっとして、直ぐに俯いてしまった。

顔がみるみる真っ赤になる。

いいな女子高生は、可愛いな・・

でも、なんで顔が赤くなるんだ・・?



  『雪里、おいおいやり方を教えよう。』

雪里「はい!」


拓也「なあ、神様、看護学校に行った時だけど・・」

  『なんじゃ?』

拓也「看護学校って、かなり忙しいと思うんだけど、大丈夫なのか?」

  『大丈夫じゃろ、霊脈の操作は月1回程度、1時間あればよい。』


拓也「え? そんじゃ、こんだけ揉めることないじゃん!」

雪里「違う! 拓也さん、違う!」

拓也「?」

雪里「私、巫女か看護師、どちらかしかないと思っていたの。」

拓也「・・・」

雪里「周りからも巫女でいるのが当然と見られるだけだった。」

拓也「え? でも、君の人生だよ?」

雪里「神様に仕える家では、神様に仕えること以外は認められないの。」

拓也「・・・」

雪里「それを普通考えられないことを拓也さんが・・。

  まさか拓也さんが、神様と話しをし・・看護師になれる道を探してくれるなんて・・

  ありがとう御座いました。本当に・・本当に。」


 そう言うと雪里は深々と拓也に頭を下げた。

女性からこのように感謝された拓也が慌てふためいたことは言うまでも無い。


 そして雪里は頭を上げた後、自分のことを語り始めた。

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