第8話 御神託について説明をされる

 「これから迦楼羅天かるらてん様の御神託の内容をお話します。」

 「はい・・」

 「霊脈れいみゃくというのは分かりますか?」

 「幽霊? に関連している何かですか?」

 「・・・」


ちょっと困った顔で見られてしまった。


 「整体や武道とかで気という言葉を聞いたことがありますか?」

 「気ですか?・・ええ、まあ聞いたことはあります。」

 「気は体の中を流れる霊的なエネルギーのような物です。」

 「はあ・・」


 「地球にも、これと似たような目に見えない流れがあります。」

 「・・地球にも・・ですか・・」

 「はい。霊脈とは地球の気の流れです。」

 「はあ・・」

 「霊脈には河川のように見えないエネルギーが流れています。」

 「・・」

 「あの・・分からないようでしたら、そのような物と覚えて下さい。」

 「・・はい、そうします。」


 言っている意味は分かるが、気とか霊脈とかは何か宗教の教えのような概念に聞こえる。なんというか非科学的なような気がするのは確かだ。

しかし、実際に神様を見させられた後だ・・。

理屈ではなく巫女みこのいうことは信じるしかないだろう・・。


 「地球上に済んでいる限り、人は霊脈の影響を無意識のうちに受けます。」

 「影響を受けるんですか?」

 「ええ、人体の気に多かれ少なかれ影響を及ぼします。」

 「・・・」


 「その霊脈を管理している神官、巫女、または霊能者がいます。」

 「管理、ですか?・・・」

 「はい。霊脈を監視し、霊脈を整えているのです。」


 「霊脈は地球のエネルギーでしょ?

自然の一部なんだから、手を加えない方がいいんじゃない?」


 なんとなく自然に人間が手を出すと、碌な事にならないような気がする。

自然保護といって、結局どこまで自然を破壊してもよいかの指針だったり、自然を知らない現代人が自然の景観を守るという名目で、いにしえの知恵で造られた物を馬鹿にして壊したり、手を加えた結果、逆効果となり、あわてふためいているニュースがあったことが脳裏をよぎる。


 ただ、神様の御神託だからそのような事はないかと思うが、人が関わってよいものだろうか・・。


 巫女は、この言葉にちょっと困った顔をした。


 「霊脈を整えないと霊脈が脈動します。

すると乱れた霊脈に影響された人々により世が乱れます。」

 

 「乱れる?」

 「はい。犯罪、戦争といったたぐいです。」

 「え?! 霊脈がそれを引き起こすの?」

 「はい、引き起こします。

 さらに霊脈の脈動が大きい場合は地震、噴火などの災害も起こります。」

 「え?!・・・」


 「霊脈を整える重要性をご理解して頂けましたか?」

 「え、ええ・・」

 「あなたに霊脈を管理している者に会って貰いたいのです。」

 「?」


 どういうことだろう?

ご神託が霊脈の管理者に会うこと?

意味が分からない。


 呆気にとられていると話しの続きがあった。


 「霊脈の管理者の継嗣あとつぎが、後を継がないようなのです」

 「・・・まさか管理者が居なくなる?」

 「その通りです。」

 「その管理者の説得ですか?」

 「はい。私も同行します」


 「えっと、あの、俺が説得できるのでしょうか?」

 「もし、出来なければ災いが起こります」

 「え、と、俺より、しっかりした貴方の方がいいのでは・・」

 「すみません。私は世間にうとくて・・その・・」


 あ、なんか分かる気がする。

ホテルの俺の部屋に不用心に来るくらいだ・・

巫女修行で世間から隔離されて育ったように見える。


 その時、いつもの神様が姿声だけで催促してきた。


 『神託を実行しないのか?』

 「いえ・・なんていうか自信がないですね。」

 『男巫おとこみこを辞めるとうことか?』

 「あ!! 違う! そういう意味ではないです神様!」


 「お久しぶりです。 猿田彦大神さるたひこのおおみかみ様」

 『おお、久しいのう・・』

 「今回は頼みを聞いていただきありがとう御座います」

 『なんの、なんの。そちの神への崇拝すうはいには関心しておる。』

 「いえ、そんな・・。私などまだまだです。」


 なんか同級会に出た生徒と先生みたいな会話だな・・・

それにしても知り合いだったのか・・

神様と知り合いなんて凄いね、この


 『して、この男巫、頼りないが誠実であることは保証しよう。

 ただ、役にたつかはわからん』

 「神様、どういう意味だよ!」

 『言葉の通りだが?』

 「あのね、頼りないのは自覚しているよ、確かに」

 『そうであろう?』


 ふふふふふ、と笑う声が聞こえた。

振り返ると巫女が笑っている。


 「猿田彦大御神様、拓也様を気に入ってらっしゃるのですね?」


 「『何処がじゃ』」

ハモってしまった。


 「それで、お話を続けてよろしいでしょうか?」

 『ふむ、頼んだぞ。我はちと急用で失礼する』

 「はい、有り難う御座いました。」


 「続きを話してよろしいですか?」

 「あ、ああ」


 「長野県佐久市に鼻面はなずら稲荷神社があります。」

 「はあ・・鼻面、ね。お稲荷さんらしい名前、かな・・」

 「その神社は湯川ゆかわという川の側にあります。」

 「はあ・・」

 「湯川は浅間山あさまやまを源流の一つとし千曲川ちくまがわに合流します。」

 「あの、千曲川ですか・・信濃川の・・」


巫女は頷きながら話しを続けた。


 「千曲川は霊脈と重なっているのです。」

 「はあ・・」

 「そして浅間山からの霊脈も湯川に沿っています。」

 「霊脈も合流していると・・」

 「はい、そうです。」

 「合流するとなると、かなりのエネルギーになるとか・・」

 「はい、その通りです。

 その霊脈を管理する場所が鼻面稲荷神社です。」


 そう言って巫女は話しの間を空けた。

こちらが理解できたか確認しているようだ。

話しを続けるよう拓也は頷いた。


 「そして、代々この霊脈は伴野ともの家が管理していました。」

 「・・」

 「その伴野家は、江戸時代に絶えてしまいました。」


 「え、それから管理されていない?」

 「いえ、分家で代々能力者が現れ管理しています。」

 「その管理者の子供が継がないということ?」

 「はい。そうです。」

 「その子供を説得せよと・・」

 「はい。」


 「長野か・・、アパートからだと遠いんだけど・・」

 「存じております」

 「知ってんの?」

 「はい。横浜に住んでいらっしゃる事を」

 「仕事もあるし・・」

 「はい。理解しております。」

 「あ、そこは神様と違うんだ。」

 「はい。私も人間ですから・・」

 「でも、神様はいつも直ぐやれと怒るんだけど・・」

 「私がなんとかします。ですから協力をお願いします・・」

 「あ、・・・うん、分かった・・」


 なんて素直で、やさいい子なんだろう・・・

これは気合いを入れてやろう。


 「引き受けていただけますか?」

 「どこまでできるか分からないけど、やってみるよ」

 「有り難うございます!」


 ぱっと桜が咲き誇ったような笑顔になる。

う、まずい、かわい過ぎる。だめだ、免疫ない!

おもわず顔を背ける。


 「あ、あの・・迷惑かと思いますが・・」

 「いや、違うんだ、その、あの、こういう性格なんだ」

 「?」

 「迷惑なんて思ってないから」

 「よかった・・」


 「君は何時日本に帰るの?」

 「今日の便で帰ります。」

 「じゃあ、次に会うのは日本だね。」

 「はい、日本でお待ちします。」


 「どうやって君と連絡を取ればいい?」

 「貴方のアパートに伺います。」

 「何時いつタイから帰れるか分からないよ?」

 「大丈夫です。わかります」

 「?」

 「巫女ですから、分かります」

 「分かるの?・・」

 「はい。」

 「・・・分かった、じゃあ日本で。」

 「では、失礼します。」


 そう言って巫女は帰っていった。


 あ、名前聞くの忘れた・・・

ま、いいか・・・

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