第8話 鼻面稲荷神社に出発進行

 出張を終え、日本に帰ってきた。

アパートに着いたのは23時頃になっていた。

へとへとである・・・


 部屋に入りすぐに暖房を入れた。

スーツケースはリビングに置き、寝室に向う。

部屋着に着替え、キッチンへと移動した。

冷蔵庫から缶ビールを取り出しリビングに戻る。

座ると同時に、缶ビールを空け一口飲んだ


 「ぷは~!!」

 思わず声を出し、缶ビールを机にドン、と置いた

生き返る~!! 最高だ!


 そして、もう一度、缶ビールを手にとる。

一気に1缶を空けて、やっと人心地がついた。


 暫くすると酔いがまわってきた。

きっ腹で飲んだせいだろう、まわるのが早い。


 ぼ~っとしながら、タイでのことを振り返る。


 日本とタイの温度差は殺人的である。

冬、氷点下の日本を飛び立つと、タイは30度前後である。

人間耐久試験でもさせたいのか、と、怒鳴りたくなる。


 そして、仕事・・・

朝7時前にはホテルを出て、工業団地に9時前に着く。

大渋滞をなんとかして欲しいものだ。

とくにお腹を下しているときは切に願う。

どんなに生水や食事に気を遣ってもお腹をやられる。

もともと胃腸が丈夫ではないからかもしれないが・・


 仕事を終えてホテルに着くのは大概午前0時だ。

シャワーを浴びて寝るのが午前2時頃。

それが毎日続く。

まあ、工場の立ち上げとはこんな物なのだろう・・


 今回、それにも増して巫女みことの面談があった。

初めて見る神様・・なんて言ったっけ・・・

確か、迦楼羅かるら天とか・・・

カラス天狗のような形相だった。

そんな神様が突然目の前に現れると心臓に悪い・・・

止まるかと思った。

いや、止まったら死んでしまうので勘弁してほしい・・


 大変な出張だった・・


 そんな事を考えているうちに、いつの間にか寝ていた。



======


 翌朝、玄関のチャイムが鳴る音で目が覚めた。

時計を見ると午前7時・・・

リビングで寝てしまったようだ。


 今日は休みなのに、こんな朝早くから誰だ!

海外出張帰りで疲れているというのに・・・

しよう。

リビングから寝室に行き、ベッドに潜り込んだ。


 『これ、起きよ!』

 「わっ!!」


 神様の声にびっくりし跳ね上がる。


 『巫女がきておる』

 「え?」

 『はよう、出よ』

 「はぁ~・・神様、僕に休日は・・」

 『無い』

 「・・・やはり・・」


 ベットから渋々出て、ふらつきながら玄関に行った。

玄関を開けると、巫女装束みこしょうぞくの女性が立っていた。


 「おはよう御座います」

 「おはよう・・」


 ふぁ~・・

あくびが出てしまった。


 「あの、すみません、朝早かったでしょうか?」


 今、気がついたという感じで済まなそうな顔をする。

美人が済まなそうな顔をするとキュンとくる。


 それにしても、この時間を朝早く感じないなんて・・

いったいこのは何時に起きているのだろうか・・

ちょっと聞いてみよう。


 「君は、いつも何時に起きているの?」

 「私・・ですか?」


 キョトンとした。


 「私は朝4時に起き、水垢離みずごりで体を清めています。」

 「え! 朝4時! この寒いのに水を浴びるの?」

 「はぁ、神に仕えていますので・・」

 「あ、そう・・すごいね」

 「いえ、普通です」


 「・・・え~っと、それで今日は?」

 「今日、鼻面稲荷神社はなずらいなりじんじゃに一緒に行って頂きたいと思いまして。」

 「・・・」

 「あの、今日はご都合が悪いのでしょうか?

 神様にタイにいるなら呼び戻すというのを宥めていたのですが・・

 日本に帰ってきたのだから、もうよいだろうとご神託があり・・その・・」


 巫女は本当に済まなそうな顔をする。

すると、すかさず神様が口を挟んできた。


 『そうじゃ、今日これから出発する』

 「え? 聞いてないぞ!」

 『聞かれてないから言わなんだが、なにか問題か?』

 「・・・・いえ、いいです・・」


 はぁ~

ため息が思わず出た。


 「猿田彦大御神さるたひこのおおみかみ様、おはようございます。」

 『おお、巫女よ、おはよう』


 「あの拓也たくや様、今日は都合が悪かったでしょうか?」

 「え~っと・・」

 『都合などあるはずがあるまい。神の神託ぞ』

 「あの、猿田彦大御神様・・」

 『なんじゃ、巫女よ?』

 「人の子には生活が御座います」

 『おお、そういえばそう言っておったの、巫女は。』

 「ですから、拓也様の都合も考えて頂ければ、と」

 『そうか? では、どうする? 男巫おとこみこを辞めるか?』

 「・・・いえ、行きます・・」


 「あの・・猿田彦大御神様、それでは・・」

 「いや、いいんだ」

 「本当に宜しいのですか?」

 「うん、いいよ」


 このに、気を遣わせては悪いと思いニッコリ笑う。

すると、ぱっと花が咲いたような笑顔が返された。


 「有り難う御座います!」


 はぁ・・休みたかった。

でも、美人の笑顔みられたからいいか・・


 「着替えるけど、外で待ってる? それとも入る」

 「宜しいのですか、お邪魔しても?」

 「いいけど、俺、一人暮らしだけど、大丈夫?」

 「大丈夫? とは何がですか」


 あ、そうか、このは一般常識がおかしい子だった。

まあ、俺もこの娘には何もする気も、勇気もないからいいか。


 「どうぞ部屋の中へ、外は寒いから」

 「ありがとう御座います」


 そして身支度を整え駅へと二人で向った。


 そういえば、巫女装束だよね?

なのに周りは不思議に振り返らない・・


 「ねえ、周りの人は巫女装束を見ても反応ないね・・」

 「ああ、それは以前あまりにも注目されるので、

 神様が対処をして下さいました。」

 「?」

 「周りからは普通の服に見える能力を頂きました。」

 「それなら巫女装束をしなくても・・」

 「いえ! この衣装でないと神様に失礼です」

 「・・そうなの?」

 「それに巫女として能力はこの衣装の時によく働きます」

 「あ、そう・・」


 やがて駅に着き目的地を目指した。


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