第10話 説得 その1

 現われたのは女子高生だった。


 いだヘルメットをバイクに置いた。

そしてユックリとこちらに歩いてきた。


 「こんにちは弥生やよいさん。」

 「こんにちは雪里ゆりさん。」


 「え? 知り合いなの?」


雪里「何言ってんの、このオジサン?」

拓也「お、おじさん!?・・て。」

弥生「雪里さん、それは失礼では・・」

雪里「そう? だっておじさんじゃん・・」

拓也「・・あの、せめてお兄さんにして。」

雪里「何言ってんだよ、俺の兄でもないだろう?」

拓也「まあ、そうだけど・・」

雪里「何が不服なんだ、あん? じゃ、何て呼んで欲しいんだ?」

拓也「じゃ、拓也さんで。」

雪里「ふ~ん・・分かった、じゃあ、タッ君。」

拓也「タッ君? ま、まあいいか、オジサンよりは。」


雪里「で、タッ君はなんでここに居るんだよ?」

弥生「付き添いです。」


雪里「あんた、まさか彼氏を作ったの?!」

弥生「そんなわけないでしょう、巫女なのよ。」

雪里「じゃあ、なにこの男は?」

弥生「男巫おとこみこよ。」

雪里「え!! そうなんだ、初めて見たよ、へ~。」

拓也「・・・まあ、そういうことだ。」


雪里「ふ~ん、まあ、どうでもいいや。

   で、何、後を継げと言いにきたのか?」

弥生「そうよ、当然でしょう?」

雪里「何が当然だよ。

   俺の人生を決めんなよ!」

弥生「霊脈の乱れをどう考えてるの!」

雪里「はん、そんなの誰か別の奴がやれよ。」

弥生「そんなことできっこないでしょ!」

雪里「じゃ、ほっとけよ霊脈なんてよ。」


弥生「浅間山の噴火や千曲川の災害があっても良いの!」

雪里「おれが起こしているわけじゃねぇだろ。

   自然の霊脈が起こしてんだ。」

弥生「人が死んでもいいっていうの!」

雪里「俺が殺すわけじゃねぇだろ!

   それなのに俺一人に押しつけるのかよ!」

弥生「あなたね!・」


拓也「ちょっと待った~ぁ!」

弥生、雪里「何!!」


 二人に睨まれた・・・

でも、どうどう巡りだろう、これは・・・

神様、どうしろっていうの、俺に・・・

俺、女の子と話しなんてできないよ・・・

困った・・・

でも、このままでもね・・


拓也「あのさ、ちょと喫茶店に入らない?」

弥生「それどころでは・」

雪里「賛成! タッ君のおごりね。」

拓也「え・・あ、まあ、いいよ・・」

雪里「よっしゃ~、じゃあ行こうぜ。」

拓也「あのさ、俺たち歩きになるけど?」

雪里「え? 何考えてんだ?

   この田舎で車無しかよ?

   本当にお前らは!」


 なんか引っかかる・・・

雪里の言葉使いが・・・

バイクから降りて、ヘルメットを脱いだ時に一瞬見せた顔もだ・・

あの時、悲壮感というのだろうか、何ともいえない顔をしていた。

何か泣きたいのに泣けない、そういった顔だった。

そんな顔をする子が、男のようなグレた言葉を使うのだろうか・・


 それに何となく、この子の悪態に怒る気がしない。

なんと言えばいいのだろう・・そう、悪意を全く感じないのだ。


 そう考えて、じっと雪里の目を見つめた。

俺の視線に気がついて、雪里は俺と目線を合わせる。

しかし、直ぐに雪里は目を反らした。

もしや・・


拓也「あのさ、雪里さん、その言葉使いやめないか?」


 雪里は、とした。

そして目線を俺に向け睨んできた。


雪里「なんだと、てめ~!」

拓也「君は可愛いし、優しい子だと思う。

   そんな君が普段話している言葉使いだとは思えない。」


 一瞬、雪里は目を見開いた。


雪里「な! な、何、何いって・・」


拓也「もう一度言うね、

 可愛い君が使う言葉とは思えない。」


 雪里は俯き押し黙ってしまった。


 やはり、この子は敢えて乱暴な言葉を使っていたんだ。

おそらく・・

自分が何を言っても無駄という自暴自棄から来ているのでなないだろうか・・

なんとなく、そう確信した。


拓也「雪里さん、俺は君に無理強いをする気はないよ。」

弥生「え、拓也さん!!」

雪里「!?・・・」


 弥生は、驚いた顔のまま俺を見つめる。

雪里は目を見開き、じっと俺を見つめた。


拓也「弥生さん、雪里さんの話しも聞こうよ。」

弥生「・・・」


雪里「私の話を聞いて・・聞いてくれるの?!」

拓也「うん、聞くよ。

   聞いた上で、良い方法があるか考えようよ。

   無ければやんなければいいさ。」


雪里「本当に、本当にいいの?」

拓也「いいんじゃないか? 君の人生だ。」

弥生「・・・・」


 雪里は嗚咽を漏らし始めた。

弥生は目を伏せ、何も言わなかった。


 そういえば、神様が何も言ってこない。

不気味だ。

神様は霊脈の監視をさせることを望んでいる。

もし、俺が真逆のことをしたならば・・俺は・・

いや、その事は考えないでおこう。

今は雪里さんの気持ちを、まず聞くべきだろう。

そうしないと、この子は・・


 しばらくすると雪里は落ち着いた。


雪里「私、家に戻り車に乗り換えて迎えに来ます。」


 雪里の言葉使いが変わっていた。

それに柔和な顔だ。


拓也「ありがとう、そうしてくれる?」

雪里「うん。」


 雪里が笑顔で答える。

会ってから初めて見る笑顔だ。


拓也「雪里さん、笑顔、かわいいね。」

雪里「っ!」


・・? 

なんで雪里さんは耳まで真っ赤になるんだ?

俺、変なこと言ったか?


雪里「じ、っじゃ、じゃあ、行ってくる!」


 そういってバイクに乗り去っていった。


 弥生は雪里が去ると話しかけてきた。


 「もし、彼女が霊脈を監視しないことになったら・・」

 「ああ、大変だろうね・・」

 「大変では済まされないわよ?」

 「うん、そうだね・・」

 「なら、なぜ!」

 「まだ子供の彼女に重責を負わせ人身御供になれと?」

 「うっ! でも、それが巫女の役割よ」

 「巫女も人間だろう?」

 「・・」

 「皆が皆、君のように強いわけじゃない・・」

 「私だって・・」


 そう言って弥生は目を伏せ押し黙ってしまった。

お互い暫く何も話さず、閑散とした公園を眺める。


 やがて弥生は俺に話しかけてきた。


 「拓也さん、もし雪里さんを説得できなければ、貴方も大変よ。」

 「男巫、解任だろうね。」

 「! それが分かっていて!・」

 「まあ、一人の女の子を犠牲にするよりいいかな・・」

 「・・・怖くはないの?」

 「怖いよ、泣きそうだよ。」

 「・・・」


  しばらくすると遠くから車の音が聞こえてきた。

 やがて公園の脇に赤い軽自動車が止まる。

 そして車の窓を開け、百合が手を振ってきた。


 「それじゃあ、行こうか。」

 「はい・・」


 そう言って雪里の車に向って二人は並んで歩いた。


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