第9話 鼻面稲荷神社
電車での道中は、正直、しんどかった。
こんなに可愛くて、美人な巫女といるのは精神的に参る・・・
いや、嬉しいのだが、会話に困る。緊張する。
電車内で改めて自己紹介をした。
この巫女の名前は、
長野県戸隠にある
幼い頃より霊力があり、修行をしてきたそうだ。
年齢は19歳。
巫女なのに1カ所の神社にはいないそうだ。
ご神託に従い、日本全国を渡り歩いているらしい。
よくわからないが神社には色々な顔があるようだ。
さて、
最寄りの北陸新幹線の駅は
この駅に二人で降り立った。
ここ佐久平駅から、
しかし、海もない県に小海という路線名はいかがなものかと思う・・
まあ、地名なんてこんなものなのだろう。
新幹線の改札を抜け、小海線のホームに移動した。
ホームから
噴煙が上がっていた。
「浅間山が噴火したのも霊脈の脈動によります。」
「えっ? 霊脈のせいなの?」
「そうです。このままだと大変な事になります。」
「え? じゃあタイで仕事している場合じゃなかった?」
「確かに急いで対処をするにこしたことはありません。
しかし1年位は問題ないでしょう。」
「そうなんだ、もしかして俺の都合に合わせてくれたの?」
「はい。拓也さんには拓也さんの生活がありますので。」
なんて優しい子なんだろう。
神様にも見習ってほしいものだ。
「俺の都合に合わせてくれてありがとう。」
「いえ、とんでもありません。」
そういって目線を下げた。
うっ、かわいい・・
そうこうしているうちに電車が来た。
いや電車ではなかった・・ディーゼルだ。
車内に乗り込むとやがて発車した。
最寄りの
鼻面稲荷神社は10分もかからない位置にあった。
タクシーから降りて神社を見て驚いた。
川の絶壁にへばりつくように、
「こんな場所に造らなくても・・・」
思わず口からこぼれ出た。
「この川は
そのため川に近い場所に神社を建てる必要があったのです。」
「ああ、なるほどね・・でも、なんで稲荷神社なの?」
「霊脈を整えるには人の霊的エネルギーが必要なんです。」
「・・」
「神社へのお参りに、人は霊的エネルギーを放出します。」
「霊的エネルギー・・を?」
「はい。そのエネルギーはお社に渦巻くことになります。」
「・・・」
「霊脈の管理者は、そのエネルギーを使い霊脈を整えます。」
「? でも、信仰はお稲荷さんですよね?」
「ええ、でも信仰対象によらず霊的エネルギーは同じなんです。」
「・・そういうこと?・・」
「おかしいと思われますか?」
「うん、ちょっと詐欺みたいな・・」
「でも、そのお陰で天変地異を鎮めているのですよ。」
「・・・それだったら厄災の神にしておけば?」
「数百年に1度あるかどうかの厄災のためお参りしますか?」
「・・・」
「それよりも身近な幸福をお参りしませんか?」
「なるほど・・だから稲荷神社なのか。」
まあ、確かに貧乏神の神社よりお稲荷さんの方が行きやすい。
人間なんて目先の幸福が一番なんだ・・
複雑な心境で納得した。
「それでは霊脈の管理者に逢いましょう。」
「何処で逢えばいいのかな?」
「向こうから、この稲荷神社に来させます。」
「どうやって?」
「巫女の力で・・」
そういうと胸の前で人指し指だけを立て印を組む。
なにやら小声で唱えているが、何を言っているかわからない。
それが1分ほど続いた。
そして組んだ手をほどいた。
「今、こちらに来るそうです。」
「そうなんだ・・」
「5分ほどかかると・・」
「分かった。」
「この神社の崖上に公園があるので、そこで・・」
「よく知っているね? ここの地図見たの?」
「今、聞きましたので。」
「・・そうなんだ。」
神社脇の朱の鳥居が連なる坂道を上がる。
そこに広場があった。
なるほど、ここか・・・
二人で公園脇のベンチに腰掛けた。
腰掛けたのはいいが、何を話してよいかわからない。
沈黙したまま時間が流れた。
正直言って、この佐久市、寒すぎる。
凍死するんじゃないか、と、思えた。
弥生さんは? と、みると・・
凜として綺麗な姿勢で座って身じろぎ一つしない。
綺麗だ・・
じゃない! 巫女装束で寒くないのか?
「あの、寒くないんですか?」
「え? 寒いですか?」
「・・・」
「あの、待ち合わせ場所を変えましょうか?・・」
「いや、いいよ。もうすぐ来そうだし。」
「済みません、気がつかなくて。」
いったい巫女修行って何をするのだろう・・
どうすれば、あんな格好で寒くなくなるんだろう?
そう考えていると、
だんだんと音が大きくなり、こちらに向ってくる。
公園脇に来るとバイクを道路脇にとめた。
バイクを降りヘルメットを脱ぐ。
すると長い黒髪がパサリと肩にかかる。
綺麗な黒髪だ。
ん? 女子高校生?
え? 管理している子孫て女の子なのか?
男じゃないの?
え? 俺、女子高生を説得すんの?!
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