第5話 巫女と会うことになりました
巫女との約束の日がきた。
会社へは食あたりが
タイだけに通じる事情だ。
上司からは、あれほど注意したのにと言われた。
出世に響くかな・・まあ、出世なんて興味ないけど・・
でも、神社に行くと出世して金持ちになりたいと願うんだよね・・
そう考えながら、ホテルのラウンジで待っていた。
暫くすると回転扉が回り、一人の女性がホテルに入ってきた。
え?
うそ?!
一瞬、呆気にとられた。
それなのに周りは、誰一人として巫女に注目していない・・
おかしい・・かなり目立ち過ぎているのに・・
そう思いながら、巫女の顔を見た。
かなりの美人だ。
そればかりか、プロポーションも良い。
巫女装束を着ていてもわかる。
歳は・・二十歳前後だろうか・・
普段なら、物怖じして近づけないタイプだ。
彼女と話す事を考えたら、なぜだか顔がほてる・・
巫女はラウンジを見つけ、こちら側に歩いて来た。
そして辺りをゆっくりと見渡す。
その時に、巫女と視線が合った。
巫女はニッコリと笑い、こちらに真っ直ぐに来た。
どうやら巫女は、拓也の顔を知っているようだ。
拓也は立ち上がり巫女を迎えた。
「おはよう・・」
「おはようございます。」
巫女は微笑んで挨拶をした。
美人の笑顔の破壊力は半端ではない。
できれば、ここから逃げたい気持ちが湧いてくる。
顔を見るのが恥ずかしいが、恥ずかしがっている場合ではない。
巫女の依頼に対応しないと、男巫を辞めさせられる可能性がある。
不幸になんてなりたくない、ならば、と開き直った。
ただ、巫女と視線を合わせないようにしようと思った。
そうしないと赤面しそうだ。
「座りませんか?」
「ありがとう御座います。」
巫女が腰掛けたのを見届け、拓也も腰を落とす。
「何か、飲みますか?」
「え、あ、はい、それではオレンジ・ジュースを」
ウェイターを呼びコーヒーとオレンジ・ジュースを注文した。
ウェイターが去り巫女が口を開く。
「今日は時間を作っていただき有り難う御座います。」
「いえ、それよりアユタヤからここまで大変だったのでは?」
「そうでもないです。 早朝にこちらに来ていましたので。」
「そうですか・・」
暫くたわいも無い事を話す。
そうこうしているうちに、ウェイターが飲み物を持ってきた。
お互い飲み物を手に取り、少しの間無口になる。
拓也は、そろそろ本題に入ろうかと考えた。
ただ、その前に巫女に自分の現在の状況を話そうと口を開く。
「依頼の前に、一応知っておいて頂いた方がよいかと思うのですが・・」
「何でしょうか?」
「俺、男巫になったばかりなんです。」
「はい、存じております。」
「男巫というのが何が何だか分からないのですが・・」
「そうかもしれませんね。」
「私は男巫として、何を期待されているのでしょうか?」
巫女は俺の問いかけを聞くと、しばらく考えてから話し始める。
「私は、代々、神に仕えてきた家系の末裔です」
「?」
何を言いたいのか分からず、思わず首を
「幼き頃より一般の方と違う世界を見てきております。」
「幼き頃から?・・」
「はい。 神に仕えるには人と違う
「・・・」
「そのため神社には神社だけに通じる通念、常識があります」
「・・」
「おそらく一般の方には理解できない世界です。」
「はぁ・・」
「一般人である拓也さんには、直ぐには理解できないかと・・」
「・・・」
「また、神様と人の考え方は違います。」
「それは・・なんとなく分かります。」
「御神託を受けて拓也さんは、どう感じましたか?・・」
「・・無理難題、訳がわからないの一言、かな?・・」
「たぶん、一般の方は大方そう思うかと思います。」
「では、男巫の役割を理解するにはどうしたらいい?・・」
「御神託を実践しながら理解していただくのが一番かと・・。」
そういって巫女は、いったん話しを区切り拓也を見る。
拓也は頷いて話しを
「それに神様は、なぜか拓也さんを男巫に任命しました。」
「? どういう意味でしょう?」
「通常、男巫は神社と関連のある家系の者が御神託により選ばれます。」
「え? そうなの!!」
「はい、拓也さんの例は聞いたことがないのです。」
「それって・・」
「何故、拓也さんが選ばれたか? ですか?」
「ええ・・」
「神様の御心は、人には推し量れません」
「・・」
「ただ、神様のなさることには
「理、ですか?」
あの神様に理があったのだろうか?
なんとなく俺を男巫にした気がしてならない。
あるいは無信心な人間をあえて選んだとか・・
そんな事を考えていたら、巫女が困惑気味に尋ねた。
よほど怪訝な顔をしていたのだろう。
「あの・・何か私の説明がおかしいでしょうか?」
「・・あ、いいえ、そういうわけでは・・」
「・・・」
「一応、お聞きしておきたいのですが。」
「なんでしょうか?」
「御神託に対し行った結果についてです。」
「・・はい?」
「神様が必ずしも満足できる結果が出せなかった場合どうなりますか?」
「それは大丈夫です。」
「・・失敗しても大丈夫だという事でしょうか?」
「いいえ、そういう意味ではありません。」
「え?」
「神様の御心に沿った結果なら、失敗してもよいということです。」
「・・・御心に沿う?」
「はい。」
「あの、御心に沿っているかどう判断すれば?・・」
「?」
巫女はキョトンとした顔をした。
拓也は巫女の理解不能という顔を見ながら話しを続けた。
「神様に男巫を任命されてから、何度か神様と話したのですが・・」
「・・」
「神様が何を意図しているのか全く分からないのです。」
「心配はいらないかと?」
「え”?」
「御神託を行っていれば、
「・・」
「ご心配ですか?」
「ええ、まぁ・・」
「でしたら、今回は私がフォローします。」
そう言って、巫女は優しく微笑だ。
拓也は巫女の言葉を聞いて安心した。
御礼を言おうとして、思わず巫女と目が合ってしまった。
目のやり場に困った・・
美人には免疫ができていない。
ましてや自分に向けられた笑顔だ。
思わず、目を反らすと同時に顔を
「? 拓也さん?」
巫女の声を聞いて、拓也はしまった!と思った。
やってしまった・・まずい・・
失礼なことをしてしまった。
拓也は勇気を出して、巫女に顔を向けた。
恥ずかしくて目が見れない。
意識的に目を見ずに、巫女の口元を見た。
口も魅力的で綺麗だ・・
・・いや! いや、いや、いや、違うだろう!
そんな事を考えている場合じゃない!
「し、失礼しました・・癖でつい・・。」
「癖? なんですか?」
「ええ、まぁ、その・・すみません。」
「・・はぁ・・」
巫女は、どうしたらいいかわからない顔をしている。
「あ、あの!」
「はい?」
「ふぉ、フォローの件、よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げた。
しばらく恥ずかしくて顔を上げられない。
巫女の身じろぐ気配がし、焦った声がした。
「あ、あの、頭を、頭を上げて下さい!」
「・・」
「お、お願いします! ま、周りが・・」
あっ!と、思って頭を上げ、周りを見回した。
周りは怪訝な顔をして、それとなくこちらを見ている。
あ、ああああああ!! やってしまった!
巫女は真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「す、済みません、お願いと御礼を言うつもりで・・」
「・・・」
「あ、・・」
何か言おうとして、言葉を探すが見つからない。
拓也は俯きテーブルの上に視線を彷徨わす。
コーヒーを見つめた後、手に取り一口飲んだ。
苦い・・・
今の心境、そのものだ。
それから5分くらいだろうか・・
すごく長く感じる時間が過ぎてから、やっと巫女が顔を上げた。
「すみません、取り乱しました。」
「いえ、こちらこそ・・すみません。」
巫女は胸に手を当て、すこし深呼吸した。
そして、姿勢を正し座り直した。
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