14

 改編後。彼女と彼女のような彼との話が始まる前の時間。具体的には車折に仕事の話をした当日、振る前の時間軸である。



「実は、ちょっと気になる人がいるわけで」


「へぇ、それは誰だい?」


「まあ、それはちょっと恥ずかしいから伏せるけど」


「そうかい。でも、伏せてもなお、その人のことを話したいんだろ? いや、その人に対する自分自身のことを話したいのか」


「さすが恒だね。そのとおりだよ。それで、その、聞いてくれる?」



 そして、その彼の告白は突然であった。弁当を広げている最中、話題に困って赤服の爺さんをいつまで信じていたかなどという世間話かどうかの瀬戸際に位置する話を始めてしまった時のような、そんな唐突を持って今日の車折は話始めたのだった。しかし、これはある意味では予測できたことでもあると言える。ここまでタイミングが早期だとは考えていなかったが、そのうちこの話題になるだろうと思っていたのは事実。最初はどうにかしようと思っていたが、俺はどのような結果になろうとも応援することに決めた。こればかりは弄ってはいけない。たぶん、必ず報われる運命となる世界線もあるだろうが、それはもうやめた。過去改編も、未来操作も行わない。そこはこの世界の運命に委ねようとおもう。



「ああ、もちろん」



 無論、俺はこれを楽しんでいる。なぜなら、それは誰が見ても乙女であり、この比喩に現実的な具体的性を持たせると、それはどうしたって恋する乙女である。



「それにね、昔、万引き犯とか、逆痴漢犯とかをその場で捕まえたんだって。現行犯じゃないと厳しい犯罪なだけに、すごいことだよね。特に痴漢の方。男にしたら、やられたらたまったものじゃないし、正直他人事じゃない?」


「へぇ、詳しいな」


「ま、まぁ、本人から聞いたからね」


「そうか。それは、詳しくなるわな」


「なに、なに? 私の話?」



 そこに明日風が参加してきた。彼女はいつも通りのポニーテール。そう、いつも通り。



「ご、ごめん」


「べつに? 謝らなくていいけど?」



 すべてを見通した小悪魔な笑顔は改編前と何ら変わらないが、以前を知っているとその髪型の変化は大きく、すぐに気が付く。そして、何か変わったなと感じるのだ。俺だけだけど。

 

 

「ん? なに、どうかした?」


「いや、別に。その武勇伝とやらを俺にも聞かせてくれないかな、と思って」


「――しょうがないなぁ。特別だよ? あれはね……」



 端的に言えば、彼女は人に対して優しくなったのだ。改編後の現在と改編前の世界に置ける稲山口を比較すれば、優しさの意味を理解していることが大きく違う。



 前世界線でも彼女はあの後、身内以外の他人に対して優しくなる。しかし、それは厳しい現実を噛み締めたからだ。諦めによって得た優しさは愁いを帯びた憂いを纏っている。よって、その違いはあの過去を抱え続けたままかどうかということになり、秘密の多い女性は魅力的だとか、傷の数だけ何とやら等の言葉を無視すれば彼女にとって、そんな過去は無い方が幸せだろうと、勝手に思っている。まあ、俺なんかは背負いながら生きていくこともまた、幸せなんじゃないかと思うけどね。



「――そこで私、気付いたのよ。あの女おかしいって。だからね、その時――」



 ちょっとおしゃべりが先行しすぎたな。さっきから改編だの、世界線だの、前の世界とか後の世界とかさっぱりわからないだろう。俺だって全部を理解しているわけじゃないが、ストーリー仕立てで話すことぐらいはできる。理解できないところは勝手に解釈して、想像でもしてくれ。



 なにせ、この度の稲山口の一件は俺と新しい方の小さい神様の関係が良く分かる。王様や警察の相棒との話がしたいのはやまやまだが、もう少しこの話を進めようと思う。長くかかるように感じる案件に思えるかもしれないが、実際世界が刻んだ時間はとっても短いんだぜ? なんたって短い時間の間を行ったり来たりしただけだからな。



 それじゃあ、紹介しよう。俺がお勧めする〝過去に加去する〟時間旅行を。きっと、あんただっていろんなことがすごく嫌になるはずさ。

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