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「そうか。永龍ではなかったか」
「ああ。残念ながら。ただの半ぐれ集団だった」
闘争直後、俺は王様に結果報告をするため、愛機で再び電話を掛けていた。先ほどの薬物常習拘留期限切れ他籍国集団は縄で縛るまでもなく、ふらふらなパンチとパイプをアンダーボーイズの皆様がジャブだけで次々に崩すだけだった。そのあと彼らを集めるだけで済んだので、一ヶ所にまとめてボーイズが囲んでいた。他のメンバーはその辺りを散策している。その辺りには電線から取るための銅線、不法投棄家電、叩けばドリンクが出てきそうな自動販売機等がある。
「そういうことなら、あとは表のサツに任せればいい。もう構わないな」
王様の部隊を動かすことができたのは永龍という単語であり、それを裏付けた煙草の包装用紙に施されたホログラム加工であったが、これも典型的な向こう側の大国からの輸入物でしかなかった。この手法も十数年前に流行った古いものだ。もちろん、こんな流行など裏でアウトローな仕事をしていない限り知らないことなので、王様たちは当然のように信じてくれたが。
「そうだな、手を焼いてすまなかった」
キングには悪いが、俺だって最初からこいつらが永龍関連ではない、なーんてことわかっちゃいなかったんだ。確固たる証拠で、確信持って協力を仰いだわけじゃない。キングもその辺は了承していたのだろうと思うのだけど、しかし、これは悪い意味でなのだが、こいつらが本命ではないと薄々感じていたのも事実。
本命というのは、永龍であるかどうかではなく、もっと他にあるのではないかと考えていた。無論、対象は依頼人と関連している人物、最終的には依頼人の命を狙っている人物の判明であるが、それではなぜ捜査対象にしたのかといえば、これが解決の糸口となると推理したからである。これにはかなりの自信があったし、実際かなりの収穫を得ることができた。もしかしたらほとんど解決かもしれない。
「事件の方も、もう終わりそうだしな」
「それは、どういう意味でだ?」
王様に寒気団が訪れた。どうやら俺にとって良い方向性に冷えてきた。いや、王自身が寒気団なのかもしれないが。
「いいぜ。まだ半分ぐらいしか証拠ないけど、話そう。人手があるにこしたことはないしな」
▶今回、ドンパチにはならず、比較的平和的に解決したのはあくまで薬物に関わる事件だ。近頃地下中華街で出回っている中華産煙草の黒い噂と、俺が受けたのは無関係だということ。事件など、最初からなかったのだ▶そもそも、素性を明かさず、ただ身の保証だけを求めてくるなど、それこそ彼自身にやましいことがあるといっているようなものなのだ。相棒が公人であったためその目的を叶えること自体は容易かったものの、同時に監視を付けるということにも繋がった。本名、同時に本性は未解明だが、インターネットにおける匿名での活動特定はとても容易かったらしい。相棒と別れてすぐに送られてきた。それでわかったのだ。彼が何を考えているのか。何を求めていたのか▶彼は嘘をついていたのではなく、嘘に踊らされていたのだ。VNS、virtual network social。サービスが語尾に付いてVNSSと呼ばれることもある、SNSの後継。仮想ネットワーク社会サービス。この新通信時代に到来したインターネットサービスで得た情報に怯えていたのだ。それでわざわざ地下にまで逃げてきた。パールを選ぶなんて、怪しいと思ったのだ。そんな通りを知っているだけで、要注意確定なのだから▶
「以上だ。これが顛末」
「つまり、ネットの情報で、たとえば地下に中国人が住み着き、地上の日本侵略を企んでいるとかを聞いた。それでわざわざ地下まで足を向けた、と。そういう話か?」
「うーんと、そこまで甘い話ではないが、まあ、そんなとこ。彼は地下に助けを求めたのではなく、真実を求めたんだろうな。ああ、キングは心配しなくていいぜ。相棒が安全安心の警護でおうちへお見送りするだろうから」
「そいつの心配などしていない」
また冷えた。今夜は毛布が必要だな。
「問題はそのフェイクの方じゃないのか」
察しの良い王様。さすがに組織のトップをやっていると悪い時の感は鋭い。そこで相棒からの報告メールを受信した。片手間に次世代スマートフォンで確認する。
「その通り。本命はそっちだ。皮肉にもこの半ぐれ達が答えを教えてくれそうなんだが……」
「どうした?」
「いや、なんでもない。概ね予想通りだよ。もしかしたらまた助けを求めるかもしれないけど」
「構わない。こちらもこちらで調査を始める。いいな?」
「もちろん。ただの平民が王様に口出しなど――」
今度はこちらがガチャ切りされた。キングって言わなかったからかな。冷えた空気が絶対零度へ向かっていったから何か思い当たる節でもあるのかもしれない。無いかもしれないが。
「さて、と。――やあ、相棒。今日は上へ下へと忙しいな」
「どうも、沓形さん。当たりでしたよ、たぶんお察しの通りです」
「それは朗報だが、不幸だな」
「本当ですよ。きちんと話してくれないからこっちが必死に走り回って、考える羽目になるんですから。分かっているならちゃんと教えてくださいよ」
「ああ、悪かった、わるかった。それでもきちんと辿り着いたじゃないか。さすが相棒だ」
「相棒、ね」
「ああ。相棒、な」
相棒が頭を下げて仲間と共に捜査に戻ると、それに手を振った。それからバイオレットに火を点け、煙がすっと口からこぼれていった。
俺が仮にも相棒と呼べるうちは良い。まだ、大丈夫だ。しかし、そのうちきっと、近いうちに俺はお前を相棒とは呼べない状態に戻る。いや、今も本当は相棒などと軽々しく呼ぶべきではないのだ。本来、俺はお前を相棒とはまだ呼べないのだから。俺の相棒になど、どれだけ背伸びしてもなれるはずがないし、どれだけの器量を備えていても共にいることなどできない。それを呼ぶことなど
もう、それはできない。
俺は、またバイオレットを大きく吸って煙を全て肺につっこみ、細く吐き出した。それから次世代スマートフォンの画面に電源を入れ、先ほどのメールを呼び出してホログラムを直上に投影。依頼人であった神下のネット上の発言を文章化し、まとめた相棒の文章だ。そこには神下が普通の会社員であること、家族四人で地上を普通と思い、地下をよく思わない普通であることが書かれている。考察として、「VOICE」と呼ばれる投稿グループに永龍や地下組織、侵略、テロ、飲み水への細工、などがそれらしい情報と共に書かれている。その多くはデタラメだが、所々に事実が紛れているため、一般の頭脳では真実だと思い込んでも仕方がないと言える、いわゆる事実の摘示ではないかと書かれていた。これには大いに賛同。神下の行動原因だと考えて問題ないだろう。さて、この噂が事実かどうかは調べるまでもないが、書き込まれるのには必ず何か意図が潜んでいる。小手先で終わるようなモノではないモノが潜んでいる。
それと、依頼人が閲覧していたグループにはその前後の会話とは何の脈絡もない投稿がある。多くのユーザーは荒らしだ、と文句しか言っていないが、俺にとっては背筋の凍るような文章だった。見るからに暗号であることは間違いないが、見たくもない単語が羅列されているのは見過ごすことが、どうしてもできなかった。
「サイカ。いくぞ」
サイカはいつの間にか自分の世界に帰っていたので、また地面から出てきたが、今度は手を差し伸べることをしなかった。
「あれ? 手伝ってくれないの?」
「地上に出る」
サイカは笑顔を困り顔に変えて抜け出し、土ぼこりを払いながら後ろを付いて来た。
――TO THE NEXT UNDER
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『 □ Now 』
『 _ ver 』
『 凹 our fate under the tera 』
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