第12話

「そうです! やっぱり、歯ごたえも大事ですよね!」

「ですです! カリカリ歯ごたえとかも欲しくなるものです!」

「甘酸っぱいのも捨てがたいですよね!」

「ああ、良いですね~! そう言うのも欲しくなるときありますよね!」


 俺の目の前では、アイリーンと、パッと見、中学生と言われても分からないくらいの女の子が、デザート談義に花を咲かせていた。

 そして、俺の手元には、山盛りになったフルーツの盛り合わせの様な物や、クッキーが大量に積まれた皿が置かれていた。


「いつ終わるんだ……?」


 つい、口を突いて出たその言葉は、果たして何に投げかけられた言葉なのか。正直、俺にもよくわかっていない。

 俺は静かに、逃げるようにこの席に来た時の事を思い出し始めた。


==========


「こちらになります。お客様、相席登録の件でお客様をお連れ致しました。申し訳ありませんがよろしくお願い致します」


 そう言って、俺たちが案内されたのは、オープンテラスのようになっている席だった。机も椅子も簡素なデザインながら、よく手入れがされており清潔感を感じさせる木製のものだ。それぞれ、塗装がされており白をベースに水色で美しいデザインが描かれている。椅子は、ベンチのような形で机を挟んで二つ置かれていた。一つに付き二人、つめれば多少窮屈にはなるが、三人はいけそうな大きさだ。机もそれに合わせてなかなか大きなものが設置されていた。

 その全体的に広い印象を受ける席には、相席を許可していた先客が座っていた。座っていたのは、中学生ほどの大きさの少女で、しかも一人だった。何となく閑散とした印象を受けたのは、開いている席が多いのと、少女の体格が小柄だからだろう。


「それでは、ごゆるりとお楽しみくださいませ」


 俺が席の観察をしていると、店員さんはメニューらしきものをアイリーンに手渡していなくなってしまった。ま、仕事があるから仕方が無いのだが。


「取りあえず席に座ってしまいましょう。失礼します」


 そのまま、突っ立っていた俺に声を掛けアイリーンはさっさと座る……少女の隣に。あ、アイリーンそっちに座るんだな。

 まあ、俺も突っ立っていても仕方ないし、店員さんの邪魔になりそうだから座るか。


「失礼する」


 一言くらい何か声をかけないとな。先客はあっちだし、許可してもらった立場だし。

 アイリーンが少女の隣に行ってしまったので、誰もいない側の席に座る。


「……」


 ちょうど座る時に少女と目が合う。ああ、成程。アイリーンは一応顔を隠しているわけだが、少女の身長と言うか、視点が低いから、外套の中を見られてしまう恐れがあるのか。だから、そうならないように隣の席に行ったと。

 ちなみに、アイリーンのように顔を隠しているお客は少ないが、居ないわけではない。特に、此処は冒険者が多く集う事もあり、顔を隠せるような外套はそこまで珍しくなく、女性の冒険者の場合は顔についた傷を隠そうとしたりすることもそれなりに多い。加えて基本は、入り口で身分チェックを行ったり、都市内部では、騎士団の様な治安維持部隊が巡回を行っている。そのため、不審者チックな見た目でも、あまり注目されないのだ。


「……っ!」


 などと考えていた時、不意に背筋に悪寒が走った。同時に少女が僅かに目を見開いたように見えた。

 ん~、なんだ? 何かされた? ……いや、特に何もされてないな。でも、変な感覚はあったし、この子もなんかに反応したように見えたし。気のせいか? ……ま、いっか。特に害はなさそうだし。この少女が反応したように見えたのも気のせいか何かだろう。

 まあそもそも、少女の表情の変化が乏しく、実際には目を見開いたかどうかとかそんなの正直よくわからん。


「さて、何になさいますか?」


 俺が座りきるのを確認していたアイリーンが、手元のメニューをこちらに見せながら質問して来る。

 流石に何があるのかさっぱり分からないので、取り合えずそのメニューをざっと確認する。そのメニューは、写真ではなくイラストと、そこに文字で軽い説明を入れたものだった。しかも、意外と品数が多い。

 この品数が竜が三体でアイデアを出し合った結果か。ふむ。普通のクッキーとかから、フルーツの盛り合わせ、果てはパフェのような物まであるようだ。残念ながら、そのパフェにアイスのイラストは見受けられなかったが、小さなケーキやホイップクリームのようなものは見て取れた。

 そのまま、ゆっくりと様々な品を確認していると、俺が迷っていると判断したのか、アイリーンが声をかけてきた。


「もし決め兼ねておいででしたら、この『エレベスイート特製山盛りワンホールフルーツケーキ』というのがオススメですよ。若干多いかもしれませんが、果物一つ一つに細かく味の調整を入れて在ったり、ホイップクリームやケーキスポンジというものも素材から厳選して、竜様に認められた調理師が丁寧に作り上げておりますので、味は保証できます。いかがでしょうか?」


 ワンホール……? 俺の想像が正しければ、あの丸々一個分の、丸いのの事か? 話を聞く限り、まるで、一人用に聞こえるんだが……?

 実際に写真を見ると、想像通りホールのケーキの絵がメニューに載っていて、アイリーンはそれを指さしていた。実は小さい一人用、とか言う可能性も隣に比較用とでも言わんばかりに置かれていたコップで打ち消された。


「その、エベレスイート特製ワンホール何とか「エベレスイート特製山盛りワンホールフルーツケーキです」……それは、一人用なのか?」


 少々喰い気味に訂正されてしまった。いったい、このケーキにどんな魔力があると言うのか。


「そうですが、何か問題がございましたか?」


 これで丸々一個が「一人様です」などと言って出てこられてはたまったものではないので念のために聞いてみたのだが、どうやらそのたまったものではなかったようだ。如何にも当たり前ではないですか、と言わんばかりの表情で、あっさり返されてしまった。

 しかも、同じ席にいるため会話を聞いていた、少女までもがうなずいていた。


「すまんが俺は別ので頼む」


 おっと、つい空気に流されて地が出てしまった。まあ、いつかは普通に接したいとは思っているが。でも、この初対面の少女が居るのにこんな空気になるとは。なんというか、何の、かは分からないけど、似た者と言うか同類と言うかそんな気配を感じるんだよな~。


「ちょっといいか? 先ほど、うなずいていたが、この量が一人用なのは普通なのか? っと、名を名乗っていなかったか。俺の名前はカースだ。そっちはアイリーン。同じ席になった縁だ。短い間だがよろしく頼む」

「どうも、アイリーンと申します。よろしくお願い致します」


 アイリーンは違和感なく合わせてくれるが、俺は、何にも考えずにそのままのノリで、つい話しかけてしまった。不思議とそこまで緊張しない。


「はい。私の名前はアーシーです、よろしくお願いします。えっと、それで、この量、ですよね? 私も、あんまり、詳しくないんですが、普通、だと思います、特に、この場所では」


  彼女の名前はアーシーと言うらしい。どうやら、特に抵抗感もなく、急に話しかけたにもかかわらず普通に対応してくれた。

 ただ、話し方が、どこか緊張している時のようだ。何というか、話し慣れていない様な。さっきの感覚、まさか、コミュ障仲間……とか?

 とりあえず、聞きずらいとかそういった弊害は無いので、気にせず、会話を進める。こういうのは擦れられたくは無いものなのだ。本人は普通に会話出来ていると思っているパターンもある。ソースは俺。


「この場所では?」

「はい。ここは、冒険者の集会所と、呼ばれるくらいですから、男性はもちろんの事、女性も、すごくたくさん、食べるんです。冒険者は、魔物と闘ったり、魔法で魔力を使い、お腹が空くそうなので」


 おや? 魔力が減ると腹が減るのか? 確か、シンシアから聞いた話だと、魔力は人間は自然回復だったはずだが。後は、空気中の魔力を取り込む、だったか?


「魔力を使うと腹が減るのか?」

「え? あ、はい。そうらしいです。私はあんまり詳しくはわからないのですが、どうも、減った魔力を、自然回復させるときに、食事をすることにより、回復を促進させることが、出来るみたいです。僅からしいですが」


 なんか魔物みたいだな。そういえば、シンシアは種族ごとに違う、とも言っていたけど、そのへんはどうなのだろうか。


「すまない。どうしても、田舎の出身なのであまり物を知らないのだ。それで、すまないついでに、もう一ついいか」

「あ、そうだったんですか。お気になさらず。はい。私に、答えられる事でしたら」

「では。俺が聞いた話では種族ごとに回復方法が違うらしいのだが、やっぱりどの種族も魔力が減った時は多く食べるのか?」

「はい。そうです。私が知る限りでは、違うのは、人間で言う自然回復だけで、ほかは割と共通するものがあるようです。その一つが、この食事だとか」


 どうやら、そう言う事らしい。

 実際に辺りを見回してみれば、店内にもそれなりに獣人らしきお客が居り、その机には山盛りのデザートがある事が窺える。

 ちなみに初めて獣人などを見た時の感動はアイリーンに質問しまくると言う形で終了している。いや、この都市でも未だ見た事が無い種族を見れば、またヒートアップすることは想像に難くない。


「ありがとう。何というか、すっきりしたよ。しかし、それならばどれもそれなりには多いのか?」


 このままでは、どれを頼んでも二人前以上か? そんな考えが頭を過(よ)ぎり、思わず口をついて出る。流石に此処まで来て、これだけアイリーンが進めて来るのだ。せっかくなら食べてみたい。

 しかし、そんな不安は今まで黙って話を聞いていたアイリーンにより否定される。


「大丈夫です。ちゃんと、一般市民向けに通常の量の物も用意されております」


 そういって、見せられたページは確かに先ほどと比べればささやかと言っていい程度の量の物が映っていた。


「おお。これなら問題なさそうだ。じゃあ、何か適当にここから頼もうか。と言っても、何にもわからないから、アイリーンのおすすめを適当に見繕ってはもらえないか?」

「承知いたしました」


 それから、アイリーンは初めから頼むものをいくつか見繕ってあったらしく、一分もたたないうちにメニューから顔を上げた。


「私たちの方は決まりましたが、アーシーはどういたしますか? 何も頼んでいないようですし、頼むのであれば一緒の方が楽でしょうし、待ちますが」


 どうやら、アーシーを気遣っているらしい。何というか、すごい慣れている感が出ている。ホントに常連なんだなぁ。アーシーの事呼び捨てだし。あ、コレは俺もか。まあ、実際に呼んではいないが。なんていうか、初対面の人間を名前で呼ぶって緊張するよね。え? しない? またまたぁ~……。心の中で一人でボケるのって虚しいな……。

 あと、あんまり俺ばっかりを気遣っているようでなくて安心した。ま、一人でそれなりの間生活していたらしいから当たり前なんだろうが。


「あ、すいません。お気遣い、ありがとうございます。私も、決めましたので、店員さんを、呼んでもらっても大丈夫です」


 どうやら、アーシーも決まったらしい。そのまま、二人は手際よく注文を済ませ、ほとんど時間が経たないうちにデザートが運ばれて来た。 

 俺は座っているだけだった。なんだろう、この、蚊帳の外感。

 しかし、どうも、様子がおかしい。なんか、運ばれてくるデザートが多い気がする。……いや、多い。確信した。確実に多い。

 俺が座る席の机は今や、デザートで埋め尽くされていた。


「多くは、無いのか?」


 思わずつぶやいてしまった言葉を、アイリーンは先ほど見たような何でもない様な顔で、


「デザートは別腹ですよ? それにこのくらいなら問題ありません」


 と、言って一蹴してしまった。

 むしろ、そのアイリーンの言葉にアーシーが反応した。


「分かってますね、アイリーンさん」

「おや、アーシーもいける口ですか」

「ええ。それなりに、ですが」


 まるで、飲み屋のおっさんみたいな会話だな。それと、アーシーの会話が何処となく流暢になっている気がする。


 しかし、本当の問題はこれからだった。

 俺はアイリーンに進められるがままに普通のサイズのケーキや、フルーツの盛り合わせ(サイコロ状の物を綺麗に盛り付けたもの)を食べた。

 が、アイリーンとアーシーは机を埋めていた俺用に頼んだもの以外を食べつくし、おかわり・・・・を注文したのだ。当然のように俺の分も頼まれていた。

 しかも、食べながら雑談をしていたのだが、そこでさらに意気投合したらしく、二人はメニューを見ながらさらに盛り上がっていた。結果、注文されるデザートの量が増えた。

 結果、今に至る。


==========


 思い出し終わった。現実逃避は失敗に終わった。目の前のデザートは減る気配を見せない。

 と言うか、こんなに頼んでお金は大丈夫なのか? アイリーンが大量に金を持っているのは知っているが少女は大丈夫なのだろうか。後、注文した物や数、どちらが頼んだかなどはどうやって記録しているのだろうか。

 その時、アーシーがアイリーンに提案した。


「う~ん、そろそろ、注文は切りましょうか」

「そうですね。私もそろそろ、限界です」


 どうやら、終わりが近づいてきたらしい。


「あ、カース様、お手が止まっておりますが、お口に合わなかったでしょうか……?」


 どことなく不安そうにアイリーンが声を掛けてきた。のだが。

 うん。今更何を言っているんだろうねこの子は。散々食べて見せたでしょうに。どう考えても原因はそこじゃない。そこじゃないんだ。


「いや、もう大分前から限界でな」

「あ、そうだったんですか。申し訳ありません。何というか、楽しくてつい、何も考えずに注文してしまいました……」


 どうやら、楽しかったらしい。原因を知り、申し訳なさそうにしている。うん、まあ、出店を回っている時にうっすらと感じていたよ。

 できる子アイリーンは、食事が絡むと駄目な子アイリーンに変わる。

 大丈夫、怒ってはいない。俺のためを思っていたのは分かる。多分。


「いや、それについてはいい。アイリーンが楽しそうで何よりだ。それよりも、このデザートをどうするかだ」


 と言う訳で、どちらかと言えば俺の前におかれているデザートの方が問題なのである。


「あ、でしたら、私が責任を持って全ていただきます」

「私も、手伝います」


 限界とは一体?


==========


「くそっ! どうなってやがるんだ!」


 声を荒らげながら、僅かに草が生えた程度の、森のすぐそばの道で大剣を振るう男が文句を言った。


「知るか! ああっ、くそ! 数が一向に減らない!」


 同じく、短剣を巧みに操り、目前に迫る脅威を受け流した男が返事と言うよりかは大剣の男と同じ文句を言う。


「ちょっとグランド、どうするのよこれから! このままじゃいつか押し切られるわよ!?」

「わぁってらぁ!」


 大剣の男――グランドが余裕が無さそうに怒鳴る。いや、事実、余裕など無いのだ。

 目の前には思わず顔を覆いたくなるほどの大量の人ひとりほどはある蜘蛛の軍勢。

 全て、鬼蜘蛛だった。


==========


 彼らは、リポス草と言う薬草を取りに魔力の森の外周部に来た。初めは、何も問題などなく採取が進んだ。しかし一度、昼食の休憩をとり採取を続行しようと立ち上がった時それらは現れた。

 初めに気が付いたのは、一番森に近かったグランドだった。

 本来ならば音も気配も悟らせないそれらを、グランドは長年の勘だけで察し、すぐさま、仲間に警戒行動をとらせた。すなわち、森に対して武器を構え、パーティに入ったばかりの初心者の少女と、基本的に後方から戦う魔法使いの女を中心に陣を組んだのだ。実はこの時点では、グランドは何が居るのかなど知る由もなかった。ただ、やばいとだけは分かった。

 そして、鬼蜘蛛はグランドたちの目の前に姿を現した。

 初めは一匹だった。

 少し前は鬼蜘蛛に会えば生きて帰れないなどと言っていたが、実際は軽口をたたいていただけで、彼らは、強い。

 なので、グランドもこれならばまだ怪我を負わずに何とかなる、そう考えた。 しかし、思惑とは逆に防戦一方の戦いを強いた原因が姿を現した。すなわち、鬼蜘蛛の軍勢(・・)だ。


 「退(ひ)けッ!」


 グランドは、考えるよりも先に口が動いていた。そして、仲間たちも、考えるよりも先にその指示に従った。

 その結果は最善だった。

 グランドたちが退いた場所は、来た道を僅かに戻ったところにある何もないだだっ広い荒野。辺りに岩や枯れ木のようなものは一切ない。

 グランドたちは、蜘蛛糸によるトリッキーな戦術を恐れたのだ。


「まったく、フラグが如何こうが本当になるとはな!」


 グランドは何でもないように言って笑って見せた。もちろん、なんでもないわけがない。魔物は、冒険者と同じようにランク付けがされており、鬼蜘蛛は、最低でもAランク。しかも、それの群れだ。十分に脅威なのだ。

 あくまでも士気を上げるための強がりだ。


「まったくよ! 誰よ、フラグなんて立てたのは?」


 魔法使いの女がいつも通りの調子で返事をする。グランドの気遣いは無用だった。


「はっ! 今更だ、そんなのは!」


 短剣の男も、士気は高かった。


「そうですよ。っていうか、火竜様の話は本当だったんですねぇ」

「そりゃ、火竜様だからな」

「そうね、火竜様だからね。ま、直接聞いたわけじゃないけど」


 初心者の女すら、のんきな物だった。そして、それに答える仲間たちにやはり、気負ったものは見えない。

 グランドは自分が一番弱気になっていることを知り、思わず苦笑いを浮かべた。


 そして、目の前に鬼蜘蛛の軍勢、その先頭の数匹が到達する。


「さて、取りあえず、こいつら凌ごうじゃねえか!」

「おう!」


 グランドの呼びかけ、短剣の男の返事を合図にするかのように、蜘蛛たちはグランドたちに襲い掛かった。


==========


「おい! アルマ! 一発デカいのを打ち込めるか? 奴らを一時的に離せるぐれえのだ!」


 グランドが魔法使いの女――アルマに対して声を張り上げる。


「いけるわ。今打つ?」

「ああ、頼んだ!」


 アルマはその返事と共に特大のウィンドボムを鬼蜘蛛とグランドの間、若干蜘蛛寄りの所に落とした。

 ウィンドボムとはその名前の通り、ウィンドボールの様な球を落とし、暴風を発生させる魔法だ。

 ウィンドボムは、アルマの狙い通りに起動し、鬼蜘蛛とグランドを・・・・・吹き飛ばした。

 別にコレはフレンドリーファイヤなどではない。風圧を利用して敵と相対していた味方を逃がすと言う、このパーティでは当たり前の戦法だ。

 事実、グランドは華麗にバック宙を決め、スタッ、と軽い音と共に着地した。ちなみに短剣の男はグランドの返事の段階でアルマの元に戻ってきている。


「よくやった! 良し、今から今後どうするか説明する。時間は無い。一回しか話さない、よく聞け」


 初心者の少女を含むすべてのメンバーがうなずいた。


「まず、この蜘蛛どもだ。こいつらは無視できねえ。だが、このままではいつか飲まれる。そこで、俺と、ザック、そしてアルマの三人で徐々に後退しながらあいつらと闘う。そして、鬼蜘蛛と戦う力のないフィーリアに町に行ってギルドに連絡、町の防備をしてもらうのと俺らの援軍を要請してもらう。正直、作戦なんて高尚なもんじゃねえ。ただの耐久戦だ。それでも、俺たち三人なら退きながらであれば、できるはずだ」

「ああ、そうだな。今のままでも、何とか防げた。退きながらであれば、もっと安定して戦えるはずだ」


 短剣の男――ザックが保証するように答えた。


「すべてはフィーリアに掛かってる。援軍さえくりゃ、都市まで一気に引いても問題はねえんだ。できるな?」


 それは、質問ではなく、確認だった。 


「はい。当たり前です。私は走るだけですから」


 そしてそれに、初心者の女――フィーリアは即答した。


「よし、俺たちの――Aランクの意地を見せてやろう」


 今、ネウルメタに迫る『脅威』との、戦いの火ぶたが切られようとしていた。

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