第6話
俺の言葉に、少女は俺のお願いを聞いて弾ませていた声を、さらに嬉しそうにして説明し始めた。
「まずは竜眼とは何か、から説明いたしますね」
「頼む」
俺の返事を聞き、軽く咳払いをして声の調子を整えてから、話し出した。
「はい! 私が聞いた話では、竜眼とは『見えざるものを見る
ふむ。どうやら、予想通りステータスチェック系のものだな。ただ、見えざるものを見る眼、か。なんか、ステータス以外にも見れるものがありそうだな。多岐に渡るって言ってたし。
「ここまではご理解いただけましたか?」
「うむ」
「では、次に竜眼の使い方です。竜眼は、魔眼の一種だそうで、この世で最も強力な魔眼なんだそうです」
ほうほう。魔眼ですか。コレは心躍るワードだ。個人的には高校三年生にもなれば、流石に厨二病的な物は完治したつもりだが、やっぱり、魔眼などの言葉には反応してしまう。それでも、俺の知っているような魔眼と同じなのかは気になる。と言う事でさっそく聞いてみた。話の腰を折るようで悪いが、気になって話が頭に入らないよりはマシだろう。
「魔眼とは何か説明してもらっても良いか?」
「あ、はい、分かりました! そうですよね。魔眼も知りませんよね。私も、あまり詳しくは分かりませんが、一般的に知られている情報に尾ひれがついた程度で良ければ説明致します」
先ほどと同様に、頼られたのが嬉しそうだ。話の腰を折ってしまい悪いかと思ったが、彼女はあまり気にしていないようである。
「よろしく頼む」
「では、魔眼とは、一般的に『魔力を動力として、特殊な視界を得られる眼』の事です。流す魔力は、魔眼の能力と、魔眼の強さ、種類によって異なります。ちなみに、竜眼は最上位で有りながら、使用する魔力が少ない特殊な魔眼です。一般には、強ければ強いほど、消費魔力は大きくなります。あ、魔力は分かりますよね? 魔法を今も使っていますし」
どうやら、魔力についての知識が必要だそうだ。そして、予想通り俺は魔法を使っているらしい。ただ、何となくなんだよなぁ。期待を裏切るようで悪いが、ここは生まれたばかりということを利用して、さっくりと教えてもらおう。
「悪いが生まれたてで、魔力についても詳しくないんだ。魔法が使えるのも何となくでな」
「そうなのですか。何となくでこれほどの魔法が使えるだなんて……。流石竜様ですわ! 分かりました。お任せ下さい!」
逆に感心された。この子は竜のやることならば何でも良い方に解釈しそうである。竜に心酔し過ぎな気がする。悪い竜に騙されないか心配になるな。まあ、悪い竜なんているのかは知らないが。
「ああ、任せた」
なんにせよ、今まで何となくで使っていた魔法が自分の意思で使えるようになるかもしれないのだ。非常に楽しみである。
「魔力とは、この世界のありとあらゆる現象にかかわってくるものとされています。火が燃える時には、魔力が熱に還元され、雨が降る時には、魔力は水となり、風が吹く時には、魔力がその流れを作り、大地に花が芽吹く時には、魔力がその成長を促す、そう言われています」
ふむふむ。ここまで聞く限り、様々な法則に付き従う、この世界独特の法則みたいだ。
「そして、この魔力はありとあらゆる生命に宿っており、様々な力を
なかなかに面倒くさい。簡単に言えばこの世界の生命はみんな魔力を持っている。例外は無い、と。
「そして、魔法とは、自分の中にある魔力を、自分の意思で、様々な現象に変換する事を言います。なので、本来何となくでできるほど簡単な事ではないのです。そこが、竜様のすごいところですね」
どうやら、ちゃんと理由があってすごいと言っていたらしい。心配は杞憂で終わりそうだ。
「なるほどな。ちなみに自分の中の魔力はどうすれば使えるのだ?」
「魔力を使うには、自分の中にある魔力を意識しなければなりません。よく使われる方法では、自分の中に水の入った入れ物をイメージすると言う物があります。水を魔力に見立てるわけですね」
なるほど。良くある例えだな。それにしても、水の入った入れ物ねぇ。……ふと、湖を想像してしまった。水飲んだ場所が原因だろうなぁ。取り合えず、よく聞くのは、丹田がどうのこうのって奴だけど、あまり詳しく覚えて無いし、折角だから、湖で行こうかな。水が入ってれば良さそうだし。
「そのあとは?」
「イメージしたら、そこから、水を手で掬うイメージをします。そして、掬った水が自分の使いたい魔法の状態、形、現象に変化するようにイメージして、現実と重ね合わせるんです。つまり、魔力の最大容量から必要な分だけを取り出して、魔法として消費するという行程ですね。因みにこの時想像すもので、初心者にも簡単にできるものとして、ボール系の魔法が有名です。あと、消すときは、そのまま、現実から霧散するようなイメージで魔力へと還元され、消えるはずです。ちなみに魔法として変換した魔力は、自身に繋がっていない場合でも、ある程度の時間までなら魔力へと戻せます」
ボール系か。ファイアーボールとか、ウォーターボールとかそういうやつかな。確かに、ただのボールを想像すればいいから簡単だろうな。さっそく真似しよう。
両手を合わせてお椀のような形にし、湖から水を掬うイメージをする。ちなみに、竜の手ではなく人の手だ。正直、竜の手で水が掬えるイメージが湧かないからな。
そして、並々掬った水を、粘土のように形が変わりボールのような形になるようにイメージする。そのイメージを、今の目の前に有るかのように重ね合わせた。
すると、見る見るうちにそこに、西瓜くらいの大きさの水の球体が現れた。
「おお、出来たぞ」
「あら! 流石です、一発で成功だなんて。やっぱり竜様はすごいですね。しかもこんなに大きなもの、初めて見ました……」
どうやら、大きいらしい。確かに、掬った水で西瓜サイズになれば大きいとは思う。と言うかなぜ、掬った水がこんな塊になったのかさっぱりわからない。そもそも、自分の今の身体が大きすぎた。頭の上にいる少女からすれば大きいのだろうが、今の俺からしてみれば、あまりにも小さい。
後、うっとりとした表情でその後半の台詞はいけない。おまわりさんわたしは無実です。
「やっぱり、何となくで出来たからでしょうか。これなら、直接イメージするだけでもできるかもしれませんね……」
何やら、少女が小さな声で独り言を呟いている。本人は言っている自覚がないのか、聞こえていないと思っているのか分からないが、頭の上で呟いているせいで、ばっちり聞こえていた。
どうやら、いちいち掬ってだなんだと、手間を掛けずとも、ただイメージするだけで魔法は使えるらしい。ある意味、今まで通りの方法だな。効率は違うだろうが。なにせ今少女を包むようにして展開されている風の幕は感じる限りでは、かなりの厚さで、しかも表面は荒れ狂う嵐のような有様なのだ。
せっかくだから、直接イメージの方も実行してみる。まず、魔力を意識する。さっきの湖的なイメージだ。そこから、必要な分の魔力をウォーターボールに変化させ、目の前に出現するイメージをする。この時、先ほどのように掬ったりなどの行程は省き、湖から直接変換するようにする。
「えっ……!」
少女の驚いたような声が聞こえた。目の前には、先ほどとは比べ物にならないサイズのウォーターボールが出現した。どうやら成功したようだ。と言っても、少女から見たら大きいのであって、俺から見たらちょうどいいくらいだ。目測では二、三メートルくらいはありそうだ。
「ふむ。こっちの方が実戦的だな」
「え、あの、もしかして、今のが、何となくで使う魔法ですか? 魔力の気配がしてからの発動がさっきよりも早かったです」
どうやら、発動速度も先ほどとは違うようだ。魔力の気配なんて分かるのか。ちなみに俺にはさっぱりわからない。
「ちょっと違う。何となく、ではなく意識して使っている。さっき教わったことを使いつつな。ただ、直接のイメージではあるが」
「直接、ってもしかして聞こえていたんですか?」
どうやら聞こえていないと思っていたらしい。
「頭の上だからな」
「あ、そういえばそうですよね」
「ああ。よく聞こえるぞ。ところで、魔力の気配とは何なんだ?」
気になっていたので聞いてみる。
「ああ、それでしたら、魔法を使って慣れていくうちに何となく分かる様になるはずです。それに、私の場合はちょっと特殊ですし」
「特殊? 何かあるのか?」
「はい。ちょうどいいのでこのまま、魔眼の説明に戻りますね」
成行きで魔眼に話が戻った。彼女と関係があるらしい。
「魔眼とは、先ほど説明した通りで、言ってみれば魔法の一種なんです。それで使い方は、魔法が使えれば至って簡単で、目に魔力を集中させるだけでいいんです」
「集中させるだけでいいのか? 魔法の一種ならイメージなどが必要になるのでは?」
「そう思うかもしれませんが、魔眼の場合、それ自体に魔法を構成する要素が含まれていますので、動力を流してやるだけで良いんです」
「そうなのか」
意外と簡単そうだ。ただし、魔力について聞いていなければ、難しかっただろう。確かに、魔法が使えれば簡単である。
「それで、私が魔力の気配というか、流れが分かるのが、私の場合特殊だと言うのは、私が魔眼持ちだからなんです」
なるほど。だから、魔眼についても詳しいんだな。いや、本人は尾ひれがついた程度とか言っていたか。それでもありがたいんだけどな。
「その魔眼は魔力が見えるのか?」
「いえ、そちらは副産物のようなものですね。実際は、生きとし生けるものの生命の波動と言う物を感じる力です。まあ、私個人としましては、あまり魔眼と言う気はしないのですが」
「そうなのか? なぜ、魔眼と言う気がしないのだ?」
「魔力を必要としないからです。魔眼は確かに、本来なら魔力を動力としますが、基本的には『特殊な視力を持つ眼』と言う方を重要視します。なので、これも魔眼の一種だと、家族に教えられました」
「なるほどな」
「さ、そんな事よりも早く竜眼を使ってみてください。そろそろ名前で呼んでほしいですわ」
確かに、魔力を使わないと言うのは違和感のある話だ。だが、早く魔眼を使ってみたい。彼女の言う通りあまり気にしないで、竜眼を使ってみよう。
初めてなので、ゆっくりと魔力を目に集中する。やり方としては、湖の水を少し目に集める感じだ。
「その調子です! あとはそのまま私が差し出す手を見てください。魔眼は見なければ意味がありません。竜眼も同じです」
そっと手が目の前に差し出された。その手を見た瞬間、視界に文字が浮かび上がった。
~~~~~~~~~~
個体名:シンシア・フィル・イクシア
年齢:9歳
種族:人間族
性別:女性
系統:王族
スキル:火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・護身剣術・上流作法
特殊:火竜の加護
~~~~~~~~~~
恐ろしく簡潔な情報だった。それでも、イメージしていた通りだ。やっぱりステータスチェックだな。よくある様な数値は無いけど。名前は、イクシア? それとも異世界だし名前の方が先に来てシンシアの方かな? 火竜の加護は、国に火竜が居るって言っていたからその関係だろう。
それにしても王族か。喋り方や雰囲気で貴族かな? くらいには思っていたけど、まさか王族とは思いもしなかった。
「どうですか?」
「視えた。少女の名前は、シンシア、で合っているか?」
「はい!!」
どっちか判断が付かなかったのでそう聞いてみたのだが、どうやら合っていたらしく少女――シンシアは、今までで一番嬉しそうに返事をしてくれた。ずいぶん感情表現豊かな子だ。
「それにしても、シンシアは王族だったのだな。敬語の方が良いのだろうか?」
一応、王族が相手なので、聞いておく。失礼があったらいけないからな。この世界においての竜の立場なら問題ない気もするが、シンシアの過剰評価の線も考えておいて、損は無いだろう。
「そんな! そんな必要はありません! 竜様に敬語で話せなどと、無礼にもほどがあります! 王族でも、打ち首になりかねませんのよ? それに、今までの雰囲気が好きですの。できれば、今まで通りでお願い致します」
怒涛の勢いで反対された。そうか……。王族でも打ち首になるとか、物騒だな。まあ、俺も敬語なぞ得意ではないので、今までのままでいいならそれに越した事は無い。今更だがこの喋り方にも慣れた。無類の竜好きのシンシアが何も言わないのであればこれと言って問題もないのだろう。気にしていないだけのような気もするが。
「分かった。これまでのままにしよう。私も敬語は得意ではないしな。それと、一つ聞きたい事が出来たのだが、良いか?」
そう。先ほどシンシアのステータスを見た時に気になったのだが、魔法に属性ごとに分類があったのだ。先ほどの魔力変換の話を聞く限り、魔法が使えれば、すべての属性も使えるようになるものだとばかり思っていたのだが違うのだろうか。
「ああ、なるほど。そのことでしたら、簡単です。人に向き不向きがあるように、魔力にもそういった相性のようなものがあるのです」
との事だった。
どうやら、魔力には変換しやすい属性と変換しにくい属性のように、相性があるのだそうだ。この相性によっては、使えない魔法も出て来るのだとか。
シンシアは魔法の才能に恵まれ、四属性すべてが使えるようになれたらしい。
「光と闇は無いのか?」
「はい。その二つは少々特殊な物でして、二属性のうちどちらか、あるいは両方がが使える場合、四属性のいずれか、あるいはほとんどが苦手になることが多いようで、逆に、
どうやら、属性同士でも相性があるようだ。そして、竜には関係ないと。竜、すげぇな。しかし、四属性全てが使える場合のみなのか。この様子から察するに魔法はなかなかにややこしいものらしいな。魔法は追々詳しくなることにしよう。
「そうだったのか。色々とややこしいのだな。ところで、シンシアを名前で呼ぶことも出来たのだから、様付けも止めてほしい。それと、始めに話しかけたのは事情を聴きたかったからなのだ。もし、シンシアが良ければ、詳しくなくても良いので聞かせてはくれないか?」
そう。もともと、事情を聴こうとしたのだ。それが何でこうなった。話、逸れすぎじゃね?
……まあ、いっか。おかげで、魔法も竜眼も使えるようになったんだしな。
「嘘を吐いていたようで申し訳ないのですが、様付けは残念ながら変えられませんわ。よく考えたら、竜様相手にほかに呼び方がありませんし。私の事情でしたら別にかまいません。確かに怖かったのですが、それ以上に、竜様に会えたことの方が大事です!」
それは、そうだな。今までの事を考えれば、様以外は呼びづらいだろう。正直、会話しているうちになれた。ちょっとムズムズするが、そういう物なんだなと、思えば何とかならない事もない。
事情の方は問題ないのか。監禁されていた恐怖を払拭する竜って、改めて考えてみてもすげぇな。
ともかく、さっそく話を聞くことにした。
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