真実
この村の真実を知るために金太郎と鬼人は洞窟を目指し、歩いていた。
すると途中で貯水池へ続いている道を見つけ、洞窟へ向かう前に何か情報が得られるかもしれないと考えた金太郎と鬼人は貯水池の方へ様子を見にいくことに決める。
「これが腐ってるって言ってた貯水池…何だよな。」
「うん…多分。だけど…これのどこが腐ってるの?」
おかしなことに貯水池は腐り果てているどころか、底が見えるほど綺麗に澄んでおり、どこも異常がないように見える。
キラキラと輝いた水を試しに金太郎は手で掬うと口に含んでみた。
「だっ大丈夫なのっ!?」
その姿を見て慌てて鬼人は金太郎の肩を揺する。
「ああ、水は腐ってなんかいない。あの村長の言っていたことは嘘だったんだよ。」
貯水池の水は腐ってなどはいない。
村長は田吾作や他の村人に嘘をついていた。
「そんな…けど、何のために?」
「それを調べに洞窟へ向かうんだろ。ほら、いくぞ。」
こんな嘘をついてまで隠し通したいこととは一体何なのか、真実を知るために金太郎と鬼人は洞窟へと目指して先へ進む。
それから貯水池に繋がっている川を真っ直ぐに辿っていくとすぐに洞窟へと辿り着くことができた。
洞窟の前には触ってしまえば壊れてしまいそうな朽ち果てた看板が立っており、そこには水源地と書かれていた。
「着いたみたいだな…。ここから先は気を引き締めて行けよ。中には何があるのか分からんからな。」
洞窟を前にし、鬼人は不安で体が少しだけ震えてしまう。
この洞窟の中にはどんな妖が潜んでいるのか、それを確かめるために金太郎は先導しながら中へと入っていく。
洞窟の中は真っ暗で何も見えず、金太郎はどこからか木の棒を拾うと布を取り出し、棒の先へと巻きつけ、布に木のみをすりつぶして作った油を染み込ませ、松明を作ると火をつけ鬼人へと渡した。
「足元、気を付けろよ。」
頷く鬼人は松明の明かりを頼りに金太郎の後を追い、奥へと進む。
「……はぁ……れがっ!!!!」
突然、奥から鬼人達の元まで大きな声が聞こえてきた。
途切れ途切れで何を言っているのかは分からない。
だが、その言葉は人語のようにも聞こえる。
「金太郎っ…。」
「静かに…進むぞ。」
頷く鬼人は松明を力強く握りしめると足音を消しながら金太郎と洞窟を進んでいく。
奥へ進めば進むほど声は大きくはっきりと聞こえ始め、生々しい鉄と食べ物の腐ったような匂いが鬼人と金太郎の鼻腔を突き抜ける。
「うっ…。」
思わず吐き気が鬼人を押し寄せ、胃液が口元までこみ上げてくるが何とか口の中で留め、もう一度飲み込んだ。
口の中には酸っぱい味が広がり、気持ち悪さが増していく。
我慢しながら金太郎の後をついていくと急に金太郎は立ち止まり、何も言わずに奥を指差していた。
黙ったまま、金太郎の影から奥を覗くとそこには。
「はぁ…はぁ…はぁ…足りない…足りないよ…これじゃ…足りない。」
目がギョロギョロと動き、頭を押さえながら同じ場所をぐるぐると回るヒョロっとした男とその前にはあの襲ってきた弁剣が頭を下げて地べたにひれ伏しているのが見える。
「弁剣っ、まだなの?まだ次の人は?」
「まだだ…もう少し待ってくれ…。」
「もう我慢できないんだよ…僕の中の鬼が今にも現れそうなんだよ…早く…早く次の人間を寄越せってっ、このままじゃ…もう自分を抑えきれない…弁剣…お前は…喰われたいのかい?」
「いっいや…どうにかしてみるよ…。」
男は弁剣に睨みを聞かせると弁剣は慌てて、金太郎の方へ向かって走ってくる。
すぐさま、鬼人を壁際に寄せ、身を隠すと弁剣が近づいてきた途端に金太郎は弁剣を自分の方へと引き寄せ、口を塞いだ。
「どういうことか説明してもらおうか。」
「んっ!?」
「おっと、大きな声は出さない方がいいぜ。お前のこの首をへし折られてたくなかったらな。」
金太郎の手に力が入り弁剣の顎を力強く掴んでいく。
ミシミシッと音がすると弁剣はすぐに首を縦に振り、頷いていた。
声を上げさせないように脅しながら、弁剣を外まで連れていくと地面へ突き飛ばし、髪の毛を掴み上げる。
「さぁ、話せよ。」
「おっお前らっ、なんでここにっ!!」
「そんなことはどうでもいいんだよ。知ってることを吐きやがれ。」
拳を弁剣の前にかざすと弁剣はポツポツと呟き始める。
「何を話せば…。」
「そうだな…あれは誰だ?」
「……あれは村長の後継…三代(みしろ)様だ。」
それから弁剣はこの村で何があったのか、真実を話し始めた。
話は金太郎と鬼人達がこの村へくる数ヶ月前まで遡る。
森の中に囲まれたこの村には鬼が立ち寄ることもなく、平和な村だった。
村人同士、皆、手を取り合い、時には助け合う。
ごく普通の村だった。
だが、ある日。
この村に奇妙な装束を羽織った幼い少女が突然、姿を現れた。
心の優しい村人達は一人で訪れた少女のことを孤児だと思い、暖かく向かい入れたそうだ。
お腹を空かせれば、豊かに育った作物を与え、喉が乾いたならば、あの貯水池の水を与えた。
少女は少しづつだが、明るさを取り戻し、笑顔を見せるようになったとか。
そんな少女のことをいつも世話していたのがこの村の村長の息子、三代だった。
三代は少女のことを自分の妹だと思い、優しく、時には厳しく世話をしていた。
だがある日、突然問題が起きた。
村にいた一人の娘が突如、姿を消した。
すぐに村長は男達に捜索をさせたが、娘は見つかることがなかったという。
そして次の日も、その次の日も娘が一人また一人と姿を消した。
弁剣と三代は村長の命令で村に何が起きているのかを確かめる為に朝から晩まで一睡もすることなく村の警備にあたった。
そして、二人が村の警備をしていた晩に貯水池の方から悲鳴が聞こえて来たらしい。
二人は慌てて貯水池へと向かうがそこには誰もいなかった。
だが地面には確かに誰かがいたという証拠に血でできた足跡が残り、洞窟の方へと続いていたという。
固唾を飲んだ二人は様子を調べに洞窟へと向かうとそこには血塗れの少女が立ち尽くし、空を見上げていたという。
二人に気づいた少女は一言、
「こんなはずでは…なかった。」
と言い、弁剣は気を失い地面へ倒れた。
次に目を覚ました時、目の前からはぐちゃぐちゃと咀嚼音が聞こえたという。
その咀嚼音の正体は一緒にいたはずの三代が村人の娘を口にしていた音だった。
三代は弁剣に気づくと手を止め、血の涙を流しながらその場で倒れた。
急いで弁剣は三代の元へ駆けつけるが、周りには消えたと言われていた村人の娘達の死体が転がっていることに気づき、その場で立ち尽くしたまま呆然としていた。
「あの時に…何が起きたのかは俺には分からない…ただ一つ言えることは…全ての元凶は…あの少女と言うことだけだ。」
「その少女は今どこに?」
「分からん…突然、この村から姿を消した。そして…その少女のことを覚えている者は俺を除いて誰もいない。」
肩を落とし、地面を見つめる弁剣が嘘をついているようには思えず、金太郎はその話を信じることに決める。
「…消えた少女に…突然、人を食べるようになった村長の息子…か。関係がないとは思えないな…。」
「あんなことをしておいてお前に頼むのは…悪いと思ってる…。だけど…三代は俺にとって大切な友なんだ。だから…頼む。あいつを…あいつを助けてやってくれ。あいつはあんなことをするようなやつじゃないんだ…だから…あいつを…。」
「残念だが、助けることはできない。俺がやることは三代の息の根を止めることだけだ。このままだと、いずれこの村の人間全員が奴に食い尽くされてしまう。」
「そんなことは分かってるさ、けど他に助ける方法がっ!」
「一つ聞かせてくれ。三代は田吾作の娘…麗華を食ったのか。」
金太郎の問いに口を紡ぐと何も話さなくなる。
弁剣の態度は答えを言っているようなものだった。
「…俺は田吾作の娘を助けにこの村へきた。だが、その娘はとっくに三代に喰われていたんだろ。お前はそれを止めようとはしなかったのか?」
「………。」
「話にならんな。」
立ち上がり、洞窟へ戻ろうとする金太郎と鬼人を後ろから呼び止めると弁剣は大声を出し、金太郎へ刀を向ける。
「お前らを…ここから通すわけにはいかんっ!!彼奴はきっと元に戻るっ、何十年だって何百年だって俺が彼奴をっ!!!」
友の為に自らの命をかけて金太郎へと挑む弁剣だったが、金太郎の拳による一撃により、弁剣は気を失った。
「………。」
その場に立ち尽くしている鬼人にはもはや何が正しいのか分からなくなっていた。
弁剣と村長は三代を助ける為に村の人々を生贄に捧げ、田吾作は生贄になってしまった娘を助けるために金太郎達をこの村へ呼んだ。
「金太郎…本当に三代って人を殺すの?」
「弁剣の話を聞いて情に流されたか…だったら思い出すんだな。俺達がこの村に来た理由を、田吾作の娘を助けるために妖を退治するためにここへ来たんだろ。娘の方はもう駄目だったが、妖を倒すことはできる。」
「妖って…三代って人は元は人だよっ、それなのにっ!!」
「元は…だ。今の彼奴は人なんかじゃねぇ、人の肉を喰らい命を保っているただの妖だ。この先、野放しにしてたら、この村だけじゃない。近くの他の村だって食い尽くされちまう。お前にはそのことが分かってないのか?」
確かに金太郎の言う通り、三代を放っておけば三代はこの村の人々を食い尽くし、新たな食料を求めに他の村へと行くだろう。
そんなことは分かっている。
分かってはいたつもりだが、心の中にモヤモヤした気持ちが現れてしまった。
「…お前がその責任を取れるって言うのなら、三代を見逃してもいい。だがな、何にも解決方法を考えていないって言うのなら…黙ってろ。」
反論することができずに金太郎のこれからする行いを指を咥えて見ていることしか今の鬼人には出来ずにいる。
「…お前はここにいろ。俺が終わらせてくる。」
ウジウジとした態度で口を紡ぐ鬼人を見た金太郎はその場に鬼人を一人残すと洞窟の中へと入って行った。
追いかけて止めるべきなのかも知れない。
だが、金太郎の言う通り、解決方法など何も思いつかない。
今になって自分の無力さを思い知った鬼人は何も出来ない自分に腹を立てる。
「うっ…うぁぁあああっ!!!」
洞窟の中から三代の叫び声が聞こえ、拳を強く握りしめると中から体を血に染めた金太郎が現れ、一言、
「終わった…帰るぞ。」
と言い、鬼人の先を歩いて行った。
本当にこれが正しいことなのか。
他に道があったのではないかと言う疑問が頭の中をぐるぐると周りだし、やるせない気持ちのまま金太郎の後を追いかけることしか鬼人には出来なかった。
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