予兆

ドォォンッという大きな音が通路まで響き、小さな石ころや砂が上から降り注いでくきた。

何かの予兆なのか、その音を耳にした子供達は不安を感じ始める。

もしかしたら鬼助に何かが起きたのかもしれないと。

だがすぐに鬼助の声が聞こえ、鬼助が無事だと分かった子供達はほっと胸を撫で下ろす。

鬼助はまだ生きている。

「立ち止まるでないっ!!すぐにこの通路を抜けるぞっ!!」

安心している子供達を急かすように河童は叫び、走り出させる。

鬼人と直義は顔を見合わせると河童の後を追いか

け、走り出す。

だが、ただ一人、椿だけはじっと鬼助のいる方を見つめていた。

これから何かが起きる、椿はそう確信している。

「椿っ、早くこっちへっ!!!」

前から二人の呼ぶ声が聞こえ、椿は返事をするとその場を後にした。

そしてしばらく長い洞穴の中を走っていると徐々に出口へと近づき外の光が見え始める。

河童は一足先に外の様子を確認しようと子供達を通路へと残し、外へと飛び出した。

だが目の前には甲冑を纏った義光が立っていた。

「やはり、ここが正解だったか。さぁ…石を渡してもらおうか。」

義光は河童へ刀の先を向ける。

この場にいるのは義満だけではなかった、義満の奥の茂みから気配を感じる。

「何のことか儂にはさっぱりじゃよ。だから道を開けてはくれないかの?」

あの子達だけでも逃す方法を考える時間を稼ごうととぼけるが義光は何も言わずに刀の先を近づけてきた。

「くっ……知らんと言っているじゃろっ!!!だから刀を向けるのをやめんかいっ!!!」

「下手な芝居などいらん。どうせ貴様の後ろにある扉の後ろへ石を持った子供が隠れているのだろう。さっさとよこせ。」

あの石だけはこいつらには渡してはいけない。


仕方ない…こうなれば奇襲を仕掛けるしかないか…。


後ろへ飛ぶと河童は頭の皿を義満へと向ける、皿には月の光が反射され、一瞬だが義満の目を眩ませることに成功した。

そしてすぐに河童は腰にぶら下げてある水筒の蓋を弾くと中に入っている水を口に含む。

河童の企みに気づいた義光は目が眩んだまま、すぐに刀を振り下ろそうとしたがそれよりも早く、河童はくちばしを義光へ向け、水の球を口から放った。

「なっ!?」

放たれた水の球は義光の胸に当たると弾ける、そして義満の体は宙を飛び、奥の茂みへと飛んで行った。

それを見ていた義満の部下達は茂みの中から一斉に河童へと矢を放つ。

大量の矢が河童に目掛けて飛んでいく、


これは…流石に全てを受け止めることなんかできんぞっ。


腰につけていた水筒を手に取ると河童は矢へと向かって投げつける、そして矢が水筒へ当たる直前に手を前に出し、叫んだ。

「爆ぜろっ。」

水の入った水筒は大量の矢の中で爆発し、爆発に巻き込まれた矢を吹き飛ばす。

だが、それでも全てを弾くことは出来ず、何本かはそのまま河童へと向かって飛んでくる。

かろうじて体を逸らし、矢を避けるが何発かはくらってしまい、河童の体に傷を負わせた。

「河童のじいちゃんっ!!!」

突然、背後から声が聞こえ、後ろを振り向くとそこには子供達の姿があった。

「馬鹿どもがっ!!!今すぐ戻れぇぇえっ!!!」

外へ出て来てしまった子供達へ気を取られている間に敵は二発目の矢を放つ。

後ろから飛んでくる矢に反応が遅れ、矢を止めようにも間に合わず、河童は子供達だけでも守ろうと覆い被さる。

「グォォォォォオオオッ!!!!!」

一瞬の出来事だった、河童が子供達へと覆いかぶさった瞬間、河童達の前に大きな体をした毛むくじゃらの獣が姿を現した。

獣は低い唸り声を出し、同時に大きな吠え声を上げる。

目の前にいたのは黒い毛並みの体の大きな熊だった。

熊は鬼人と河童の顔を見る。

「じいちゃんっ、この獣が背中にのれって!!」

何故、熊の考えが鬼人に分かるのかは分からないが他に道はないと悟った河童は鬼人達の体を持ち上げると熊の背中へと乗せる。

そして鬼人達が背中へ乗ったのを確認すると熊は走り出した。

「くっ……奴らを逃すなっ!!!!」

後ろから義光とその手下の声が聞こえ、すぐに矢が飛んでくる。

熊はチラッと後ろを見るが、後ろから飛んで来ている矢を物ともせずに熊は先へと走って行く。

「この際、石さえ手に入ればいいっ。」

物騒な言葉が聞こえ、鬼人達が後ろを振り向くと敵の何人かが馬へと乗りこちらを追いかけて来ていた。

「鬼人っ!!体を支えてくれっ!!」

このままじゃまずいと考えた直義が鬼人へと叫ぶ。

鬼人は熊にしがみつきながら直義の体を掴む、直義は後ろを振り返り、敵へと弓を構え、矢を放った。

直義の放った矢は馬の頭へと刺さると馬は叫び声のようなものをあげ、倒れていく。

「よしっ!!!次っ!!!」

弓の感覚を掴んだ直義はさらに弓を構えようとするが河童は直義を止めた。

「それまでじゃっ。熊へとしがみつけっ!!!」

直義は頷くとすぐに弓を背にしまい、熊へしがみつく。

今度は敵が弓を構え、鬼人達へと矢を放とうとしていた。

「まずいよっ。河童の爺ちゃんっ!!あいつら矢を放とうとしてるっ!!」

「分かっておるっ!!!だがもう少しっ…もう少しの辛抱じゃっ!!!」

河童にはある考えがあった。

この先には川が流れている。

その川を利用することで後ろの敵を足止めすることができるかもしれない。

熊が走り続けていると開いている場所へと飛び出した。

そこには河童の考えていた通りに川が流れている。

河童はそれを確認すると後ろを向き、敵の位置を確認する。

そして両手を高く上げ、敵へと向けた。

「喰らえっ!!!」

川の水が触手のようにうねりだし、追っ手へと襲いかかる。

追っ手の何人かは倒すことが出来たが、それでも次から次へと追っ手は増え続け、きりがない。

追っ手に追われながら川を渡りきると突然、前から声が聞こえた。

「ったく、何でこう木ばっかり生えてんのかね…。」

熊の視線の先には大きな斧を地面へと立て、こっちを見ている青年が立っていた。

奇抜な髪型をし、首には金と書かれた布を巻いた青年。

「あれっ、おせ〜よ、熊公…って…やっと来たと思ったら、ガキなんか連れて来やがってよ。しかも、物騒な奴らまでいんじゃねぇかよ。まぁいいや、ここは俺がなんとかしてやんよ。」

熊は青年へと頷くと横を通り過ぎていく。

鬼人達はすれ違いざまに青年と目が合うと青年もチラッと鬼人に目を向ける。

「…やっぱりここにいたか…それじゃ、一つ暴れますか。」

青年は斧を天高く投げつけ、地面から石を拾うと追っ手へとめがけて投げつける。

投げた石は馬の目へと当たり、馬は乗っていた敵を投げ飛ばし、体勢を崩し青年の前へと倒れていった。

「キェェェェエエッ!!!」

追っ手の一人が青年へと刀を振り下ろす。

だが、青年は刀を軽く避けると馬の手綱を手に取り、敵が乗っているにもかかわらず、敵の後ろへと乗り込み、敵を地面へと投げつけた。

追っ手が青年へと気を取られている間に、熊は走り続ける。

気がつくと後ろにはもう追っ手はいなかった。

熊は念のためしばらく走り、走っている途中で見つけた洞穴へと子供達と河童を連れていくと奥へ隠れる。

安全なことを確認すると河童達は熊の背から飛び降り、地面へ腰をおろした。

熊と河童は鬼人達が降りたことを確認すると洞穴の入口へと行き、辺りを警戒する。

「はぁ…はぁ…さっきの人…大丈夫かなぁ…。」

「わかんねぇ…だけど…強かったなぁ…。」

「かっこよかった…。」

追手を巻いたことを確認した河童は鬼人達の元へと歩き、隣へ座ると安堵の息を吐く。

「どうやら完全に敵を撒くことができたようじゃな。それでこれからのことを説明する前に……少し体を休めておけ。これからもっと遠くへと歩かないといけないからな。儂も今日は少し疲れたから寝るとするわい。」

そういうと河童は奥にある水溜りへと歩き、横になっていた。

鬼人達は河童に言われた通りに休むことにした。

「なぁ…父ちゃん大丈夫かなぁ?」

鬼人が心配そうに直義と椿へと聞く。

「当たり前だろ?俺達の父ちゃんなんだぞっ。大丈夫に決まってるっ。」

鬼人を安心させようと直義はそう言ったが直義自身も不安を隠せない。

自分達を追いかけてきた奴らがもしかすると鬼助の方にも襲いかかってるかもしれない。

もしそうならば鬼助は大丈夫なのか…。

直義はそう考えていた。

鬼人は鬼助からもらった石を手に取り、眺め出す。

石からは何か特別なものを感じる。


あの人たちはこの石のことを狙っていた。

一体、この石はなんなんだろう…。


すると突然に鬼人の持っている石が輝き始めた。

鬼人は驚き、手から石を落とすと石は鬼人の手から離れた途端、輝きは小さくなりそして何事もなかったかのように戻っていく。

一瞬、だが体の奥底から何がが溢れ出てくるのを鬼人は感じ取った。


さっきの光はなんなんだろう。


鬼人はもう一度手に握ろうとしたが急に眠気が押し寄せ、鬼人は眠ってしまった。

「今のは?」

椿は鬼人の持っている石が輝いた瞬間を目撃し、石が輝いた瞬間、頭の中へと何かが見えていた。

荒れた地に成長した鬼人が立っている。

そしてその先には直義が立ち、鬼人のことを見ていた。

鬼人達と直義は互いに武器を構え、今にも戦おうとしていた。

だが頭へと流れ込んできたものはそこで終わってしまっていた。

今のが一体なんなのか…椿にはまだわからなかった。

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