河童
「……なぁ……竿…ひかねぇな。」
「そうだなぁ……。」
「つまんない。」
「「「はぁー」」」
小さな湖に三人の子供達が並んで座っていた。
湖には魚がいるのに何故か、竿には反応がない。
ただただ時間だけが進み、三人は退屈で退屈でしょうがなかった。
あれから孤児だった直義と椿は赤鬼の鬼助にまるで自分の子供達のように迎え入れられ、今は鬼助、それから直義と鬼人、椿の四人で仲良く暮らしていた。
だが、そこで一つ問題が起きてしまう。
それは食い数が増えてしまったことによる食糧不足だ。
いつもなら鬼助と鬼人の二人で足りる量が直義と椿の二人が増えたことにより、足らなくなってしまった。
頭を抱えていた鬼助を見た三人は自分達だけで食料を調達しようと考え、三人は晩飯を取りに釣りへと出掛けていたのだ。
楽勝だと考えていた三人だったが、現実はあまり上手くは行かず成果は小魚が三匹と片っぽだけの草履。
こんなものでは自分達はおろかあの鬼のお腹は膨れることはない。
「これなら動物を狩った方がいい気がする。」
思いだったように直義はそう言うが直義達の持っていた弓や槍は鬼助へと取られてしまっていた。
鬼助が言うには子供はこんなもん必要ないとのことだ。
「だけどここら辺では動物なんて一匹も見なくなっちまったよ?それなのに何を狩るんだ?」
鬼が暴れた影響による者なのか、ここらにいた動物達は鬼が現れてから数を減らし、今では何も見なくなってしまった。
「……何かしらはいると思うけどなぁ。イノシシとかうさぎとか。」
「そんなら動物探しに行くかぁ?」
「そうだなぁ。」
痺れをきらした直義と鬼人が立ち上がろうとすると、
「来たっ。」
椿が竿を引きながら鬼人たちへと叫んだ。
鬼人たちは慌てて椿の竿を掴み、三人で魚を引き上げようとする。
「こりゃ…大物だっ!!!」
竿は大きくしなり、糸を引く力がかかる。
少しでも気を抜いてしまえば三人は一気に湖へと引きずりこまれてしまうほどだ。
「ぐぬぬっ…竿が折れちまいそうだっ!!!」
「晩御飯っ!!!」
椿とともに直義と鬼人も力を入れる。
しかし、竿を引っ張る力の方が強く、三人は湖へと引きずりこまれていった。
「うわっ!!!」
ザブンっと大きな音と水しぶきをあげ、三人は水の中へと入って行く。
すぐに直義と椿は水面へと向かい泳いで行く。
だが鬼人は泳ぐことができずにどんどん下へと沈んで行った。
必死に腕を掻き足をバタつかせるが上へとは向かわず、下へと沈んで行く。
「ばぶぼびっ!!!ぶばびっ!!!」
水中で必至に二人の名前を叫ぶが二人へと声は届かない、それどころか二人の名前を呼んだ拍子に腹にためていた空気が泡となって口から逃げていってしまった。
「全く…世話の焼ける小童じゃ。」
水中で溺れながらもがいていると不思議な声が鬼人へと聞こえた。
「体の力を抜け、そんなに動いていると逆に沈んでしまうわい。」
ヒタッとした何かが背中へと触れる。
鬼人は言われた通りに体の力を抜くと、凄い勢いで体が水面へと向かって持ち上げられて行く。
「ぷっはぁぁぁ。」
水飛沫が上がり、水面から鬼人が顔を出すと直義が慌てて湖へとまた飛び込んだ。
そして、鬼人の元へとたどり着くと半分意識を失っている鬼人の体を支えながら岸辺へと運んで行く。
「大丈夫かっ!!!鬼人っ!!!」
湖の中から鬼人をあげるが鬼人からの反応はない。
だが、何度も何度も体をさすりながら名前を呼んでいると鬼人は口から水を吐きながら意識を取り戻していった。
「…えっ…へへ…だいじょうぶだぁ…。」
力の無い声で鬼人は二人を安心させるように笑い
、それを見た二人は安堵の息を漏らす。
「そういえば…水の中で声が聞こえたんだ。みんなには聞こえなかったか?」
二人は不思議そうな顔をし、首を横に振る。
「水の中で声なんて聞こえるわけねぇよ。気のせいなんじゃねぇのか?」
「確かに聞こえたんだよ。そのおかげでおらはここにいることができるんだ。」
そんなことがあるわけがないと直義は言い、二人は鬼人の不思議な話を馬鹿にして笑っていた。
だが、確かに鬼人には聞こえていた。
老人のような声が。
しかし、辺りや水面を見渡すが三人以外には誰もいない。
さっきの声は誰のものだったんだろう…。
不思議に思う鬼人の身体のことを考え、しばらくは湖で体を休めることに決めた三人だったが、結局、声の主は姿を現さず、三人は小魚を持ち、家へと帰る。
弱り切った鬼人の体を支えながら三人は家へと着くと鬼助が大量の魚を机の上に並べて料理をしていた。
「この魚どうしたんだっ?」
机の上に並べられた魚を見た直義は鼻息を荒くしながら鬼へと尋ねる。
「これか?これはな、知り合いの爺さんからタダで貰ったんだよ。何でも最近、遠くへ行ってたらしくてな、その土産らしい。」
お腹と背中がくっつきそうだった椿と直義は大喜びして鬼助のことを手伝いに行く。
だけど鬼人はまださっきの声について考えていた。
「ん?」
三人の中でも真っ先に喜びそうな鬼人が黙っていた、鬼助は鬼人の様子がおかしいことに気づき、二人へと事情を聞いた。
「なぁ…鬼人はどうしたんだ?何だか上の空みてーだが。」
「なんでもよぉ。水の中から声が聞こえたんだとさ。そんなことあるわけねぇのに。」
「水の中からねぇ。鬼人、こっちに来い。」
水中からの声、それが出来るのはきっとあいつのことだろう、鬼助は鬼人のことを呼ぶと鬼人はトボトボと鬼助へと近づいてきた。
「本当に声が聞こえたのか?」
「あぁ。聞こえた。」
「そら、もしかしたら河童の声かもしんねぇな。あそこには昔、河童がいたからな。」
河童という言葉を聞いても鬼人にはピンっとはこなかった。
「それは何だ?食いもんかぁ?」
「バカっ、ちげーよ。河童は水の中に住んでる妖怪だ。人の尻子玉盗んじゃ人を腑抜けにするタチの悪い妖怪だな。」
三人は尻子玉の意味がわかってはいなかったが尻に関係のあるものだと悟り、急いで自分達のお尻を隠し始めた。
その姿を見た鬼助はお腹を押さえると大きな声で笑い出す。
「ならっおらの尻子玉はもう抜かれちまったのか?」
泣きそうな顔をした鬼人がそう言うと鬼助は、
「そうかもしんねぇな。」
と鬼人をからかった。
その言葉を聞き、不安になってしまった鬼人は泣き出してしまい、他の二人も泣きそうな顔へとなって行く。
「おらもう生きていけねぇよ。尻子玉がなきゃ生きてけねぇ。」
「嘘だよ。もし抜かれてんならそんな大声出して泣くことすらできねぇからな。」
鬼人は鬼助の言葉を聞くと安心したのか、すぐに鬼人は泣き止んだ。
「な〜んだ嘘かぁ。そんなことより尻子玉ってなんだ?」
「知らん。生き物のケツの中にあるもんだって河童は言ってたけど見たことなぇなぁ。河童に聞けば何かわかるんじゃないのか?」
「尻子玉はあるぞ。」
突然、扉の方から声が聞こえ、鬼助と鬼人達は顔を揃えて扉の方を向くとそこには奇妙な姿の生き物が立っていた。
濁った緑色をした身体の色に、頭には皿のようなものを乗せ、くちばしを生やした生き物が偉そうな態度をとり、立っていた。
ヘンテコな姿をした生き物に鬼助以外の三人はすぐに鬼助の後ろへと下がる。
「やっぱ、爺さんだったか。うちのせがれを助けてくれてありがとうな。ほら小僧、礼を言え。」
鬼人は頭をぺこりと下げる。
その姿を見た河童は大声を出し笑っていた。
「かっかかかか。よせやい、お前さんと儂の仲じゃろう。それにしてもこの子は大きくなったのう。今いくつじゃ?」
河童はゆっくりと近づくとヒレのついた手で鬼人の頭を撫で、なんともいえない感触が頭から伝わり、体を震わせる。
だけど少しだけ懐かしくも感じた。
「十二だな。河童の爺さんとあった時はまだ生まれて間もない赤ん坊だったからなぁ。鬼人には記憶にないだろうなぁ。」
「よいよい、こうしてまた大きくなった姿を見ることができたのだから。まぁあの子の姿を見ることができないのは残念じゃがな。」
そう言うと河童は頭のお皿を撫でながら昔を思い出していた。
お皿からはきゅっきゅっと音が聞こえ、乾きかけていた皿に潤いが戻っていく。
「そうだなぁ…きっとあいつもお前に会いたがってただろうなぁ。」
昔のことを思い出し、二人は感傷に浸っているが鬼人や直義達は何のことかわからずにポカンっとしている。
「それで…その後ろにいる童は?」
鬼助の後ろへ隠れていた直義と椿の方をチラッと見た河童は鬼助へ尋ねる。
「こいつらは孤児だ。行く場所がないらしいからな俺が育てることにした。」
「お前さんは本当にお人好しじゃな。そんなんじゃいつか痛い目を見るぞ。」
「もう嫌という程見てきたさ。だからこそこいつらを見捨てることなんて俺には出来ない。これは俺のせめてもの償いだ。」
過去に犯した自分の過ちを思い出すと直義や椿へと目を向ける、二人は河童に怯え、鬼助から離れようとはしない。
「そうか……だとしたら儂は何も言わんがな。……そうじゃた、儂はお前さんに伝えなきゃいけないことがあるんじゃが…少しだけ二人にはなれんか?」
「かまわねぇよ。悪いがお前らはここに残って飯の準備していてくれ。俺はこの爺さんと少し話しをしてくるから。」
そう言うと鬼助と河童は家を出て行き、外へと歩いて行く。
家へと残された三人は鬼に言われた通りに料理の支度を始めた。
「なぁ…鬼の父ちゃんと河童は何を話してんだろうなぁ。」
「さぁ…おらにはわかんねぇよ。椿はなんか分かったか?」
ここに来たばかりの椿にも分かるわけがない。
ただ一つ分かったことといえば、
「臭くて気持ちが悪かった。」
ことぐらいだった。
二人は椿の放った言葉に共感し、料理を続ける。
「良かったなぁ鬼人…河童の子供だったらあんなへんな皿が頭に乗るんだぞ。それに比べたらツノの方が何倍もかっこいいぞ。」
確かにあんな変な皿が頭に乗っていたら笑いもんにされ、馬鹿にされてしまうかもしれない。
本当に河童に生まれなくて良かったと心から鬼人は思っていた。
「ツノ…かっこいい。」
チョンッと角の先を触る椿に鬼人は照れて顔を赤くする、三人はそれから河童の話で盛り上がりながら料理を作り、鬼助達の帰りを待つことにした。
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