第639話 大粒
「――状況はどうですかっ」
康生の元に上代琉生達が到着した。
これで戦いに参加していた者達は全員集まった。
だがそれまでの間、エルが必死に治療行為を続けるが未だ康生が目覚める様子はない。
「まだ分からない……という感じだな」
時雨さんはじっとエルを見守るながらもわずかに口を開く。
「AI、最後英雄様はどうなった?」
現状が厳しいという中で、上代琉生はAIに康生の最後を尋ねる。
AIならばあの瞬間何が起こったのか把握していると思ったからだ。
『私も最後には通信機器が破壊されたので詳細は分かりませんが、それでもご主人様は最後の最後に風の力で全身を覆い防ごうとしていました』
「なるほど……。魔力が使えない以上、それしかないか」
魔力の暴発ということで当然、康生自身も魔力も使えばそれに巻き込まれて破裂してしまう。
だからこそあの状況で康生が使えた手段は風の力しかなかったようだ。
「しかし……。風の力だけでこうして五体満足で見つかったのは幸いなことですね」
上代琉生は康生が見つかったということで少しだけ安心していた。
さらに息もあるということなので、後はエルに頼むしかないが。
「AI、エルを手伝ってやってくれないか?」
『もうすでに行っています』
上代琉生が頼むよりも先に、どうやらすでにAIはエルの治療行為の手伝いをしているようだった。
「それでどうですか?英雄様は大丈夫そうですか?」
だからこそ康生が治るかどうかを尋ねる。
『そうですね。正直かなりまずい状況です。まだ心臓が動いているのが不思議なほどです』
「そうですか……」
AIの言葉を聞いてその場の者達はさらに表情を暗くする。
皆エルが必死に治療しているのを見ながらも、何も出来ないことに苦渋の表情を浮かべる。
今、治療魔法を使えるのはエルしかいない。
しかも皆魔力がほとんどない状態だ。
医療の知識もなく、魔力もない皆はただただ見守ることしか出来なかった。
「――そんなっ」
だがそんな中、必死に動いていたエルの動きが止まる。
回復魔法の光もなくなり、エルは突然呆然と固まってしまった。
「ど、どうしたっ!」
明らかに何かあったその異変に国王は慌てた様子で尋ねる。
「康生の……心臓が、止まった……」
「なっ!?」
エルの絶望した声に皆は一様に声を張り上げた。
「そんなっ……どうしてっ……!康生っ!康生っ!」
康生の命が途絶えことにエルは大粒の涙を浮かべ、泣き叫ぶのだった。
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