第638話 治療

「エルよっ!早く来てくれっ!」

 康生が見つかったという報告が入って皆が安堵した。

 だがすぐさまその康生の状態を聞いて皆、表情を青ざめた。

「すぐに行くっ!」

 康生を見つめた部隊にいた国王がすぐさま無線を通じてエルを呼びつける。

 今、この場で治療魔法が使えるのはエルたった一人だ。

 だからこそ奈々枝の指示ですぐにでも移動できるよう爆心地で待機しており、そして奈々枝が持っていた魔道具をつけ、すぐさま移動を開始する。

 幸いなことにも康生が見つかった地点はそこまで遠く離れた場所ではなかったのでエルはすぐさま駆けつけることが出来た。


「そんなっ……」


 だが康生の姿を一目見た瞬間、エルは言葉を失う。

 地面にぐったりと倒れている康生の体は、全身に打撲や内出血の痕がついていた。

 さらにはざっとみた感じ、あちこちの骨がひび割れ、中には粉砕している箇所もあった。

「エル。お前だけが頼りだ。なんとか頼むっ」

 康生を見つけた異世界の国王の一人はエルに頼む。

「えぇ、任せてちょうだい。そのために私がいるんだから」

 そう言ってエルは康生の元に膝をおろす。

 まずは治療するために全身くまなく調べる。

「……こういうのもなんだが、まだ生きているのか?」

 そんな中、近くに来ていた国王はエルに尋ねる。

 一目みた感じだと、現在の康生は生きているかすら怪しいものだった。

 というのも死体と言われても信じ込んでしまうほど壮絶な傷を負っているのだ。

「大丈夫、まだかろうじて生きてはいる。だけどいつ死んでもおかしくない状況なのは確かよ」

 そこまでの傷を負った康生を間近に見ながらエルは淡々と答える。

 回復を得意とするエルはこの場にいる誰よりも康生の容態のことを知っている。

 康生を治療することがどれだけ絶望的なことかも。

 しかしエルはそれでも狼狽することなく、ただただ冷静に本気で康生の体に回復魔法を浴びせながら、治療の手法を考えている。

「――我々に手伝えることがあればなんでも言ってくれ。すぐに動く」

 これ以上話しかけては邪魔をするだけだと思ったのだろう。

 国王はそういうとエルの集中を乱さないように静かになる。

 それは周りにいた兵士達も同様だった。

 そして康生を見つけた報告を聞いた者達が次第にその場に集まってくる。

 皆が康生の姿を見て息を飲む中、静かにエルの動向を静かに見守る。

「康生っ、待っててっ。絶対に助けるからっ!」

 そんな中、エルは必死になって治療を続けていた。

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