第640話 心臓
「そんなっ……どうしてっ……!康生っ!康生っ!」
静かな荒野にエルの鳴き叫ぶ声が響く。
しかしエルは未だ諦めておらず必死に回復魔法を康生を浴びせていた。
「そ、そんなっ……!」
「ど、どうしてだよっ!」
そしてそんな康生とエルを囲うように経っていた国王や兵士達はそれぞれ表情を険しくする。
康生はいわばこの世界を救ってくれた恩人だ。
たとえ敵対関係であったとしても、それでも今の皆の心は康生への感謝の気持ちしかなかった。
それなのに、心臓が止まったという言葉を聞いて皆はショックを隠しきれない様子だった。
「AIっ!どうにかならなのかっ!」
康生の死に誰もが動揺する中、それは上代琉生は例外でもなかった。
いつもはどんなことがあっても冷静さを見せている上代琉生すらも激しく動揺するように冷や汗をかきながら、まだ何か助かる手段はないのかとAIを頼る。
『しばらくお待ちください……』
しかし流石のAIもこの状況を打破する方法は思いつかないのか、すぐに返事を返すことはしなかった。
「くそっ!絶対に英雄様を死なせてはならないっ!犠牲になんてさせてたまるかっ!」
激しく感情を荒立たせた上代琉生は声を張り上げながらエルの元に行く。
「エルっ!心臓が止まったんだよな!?だったら心肺蘇生法ならどうにかなるんじゃないかっ!」
「今やってるっ!」
見るとエルは必死に康生の胸を何度も何度も押しつけていた。
「俺が代わるっ!」
しかしエルは力があまりないため、すぐに体力が尽きてしまいそうな様子だった。
だからこそ上代琉生が代わりに胸を何度も押し、そしてその合間にエルが康生の肺に空気を流し込む。
「誰かっ!雷魔法を頼むっ!」
そしてAEDの代わりとして、雷の魔法で対応しようとエルが叫ぶ。
だがこの中の者達は皆魔力がほとんどない状態だ。
そんな中、残り微量な魔力を使ってしまえばすぐに気絶してしまうか、最悪は死んでしまう。
しかもただでさえ微量な魔力を極限まで調整しなければならない。
そんな大切な役目ということで、エルの頼みにその場の者達はわずかにためらってしまう。
だが、
「私がやろうっ」
そんな中、リナさんが声をあげた。
「それじゃあ私が合図をしたらお願いっ」
「分かった」
康生の命がかかっている以上、一瞬の迷いも許されない。
そんな精密な動作が要求されるが、リナさんはエルの言葉をただ信じて集中する。
「お願いっ」
「あぁっ!」
そうしてエルから合図をもらったリナさんはすぐさま雷の魔法を康生に浴びせる。
「どうだっ!?」
上代琉生はすぐに心臓に耳をあてて確認するが……。
「――くそっ!だめだっ!」
しかし康生は息を吹き返すことはなかった。
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