第615話 存在

「…………」


 突如として現れた人の形をしたそれは何をするわけでもなくただただその場に浮遊し続ける。

「――おいおいなんだってなんだよありゃあっ!あれがあの物体の本体なのか?」

 さっきまで戦っていたザグは突然物体の中から現れたそれに畏怖の感情を抱いていた。

 それから発せられる底知れない恐怖を肌で感じ取っていたのだ。

「とにかく現状不可解なことが多すぎる。それに……」

 とそこで言葉を区切り、リナさんは周囲を見渡す。

 目の前の物体だけに集中していたリナさんだったが、すぐに周囲の喧噪に気づいた。

 周りを見渡せば、いつの間にか周囲に散っていた物体の姿は忽然と消えており兵士達が困惑した表情を浮かべていた。

 物体が一気に収縮していった一瞬でよく分からなかったが、リナさんの目には周囲の小さな物体が巨大な物体の元へ集まっているのが僅かに見えた。

「上代琉生。この状況、一体どうする?」

 しかしリナさんも同様に目の前のそれの底知れない恐怖を感じていたので、少し震える唇を動かして無線を飛ばす。

『――すぐに英雄様を向かわせます。なのでそれまでにそれが被害を及ばせないように観察をお願いします』

「了解した……」

 上代琉生もまた同様に、突然の出来事に戸惑いの感情を隠せないようだった。

「観察だと?今の内にこっちから攻撃を仕掛けないでいいのかよ?」

 だが同じく無線を受け取ったザグはすぐに言い返す。

「やめろ。あれがどういう存在で、どれだけの驚異が全く未知数なのだ。ただでさえあれ以前の物体ですらあれだけの驚異があった。だからとにかく待て。何も考えずに行っても死ぬリスクが高くなるだけだ」

 しかしそんなザグの言葉にリナさんは軽く声を荒げる。

「とにかく待て。あれはもしかすると本当にやばい……」

 と続けざまにザグを説得しようと口を開いたリナさんだったが、言葉の途中で固まってしまう。

「ぐっ!」

 固まったリナさんの体が突然何かに押し飛ばされたように飛んでいってしまう。

「なっ!?おいっ!いっ……」

 突如として飛んでいったリナさんを見てザグは驚愕の表情を浮かべて振り返るが、しかしそのザグもまた続けざまに吹き飛んでしまった。

『どうしましたリナさん!ザグっ!』

 突如として吹き飛んだ二人を見て上代琉生はすぐに無線を飛ばした。

『――どうやら例の物体、いえ生物から攻撃が繰り出されました』

 しかしその問いに答えたのはAIだった。

『あれはもう人の手ではどうしようも出来ない存在になったようです。なのでご主人様はすぐにあれを止めて下さい。あれを止めれるのはご主人様しかいません』

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