第575話 空中
「うるさいうるさいうるさいっ!化け物共は全員敵だっ!!話し合うことなど何もないっ!」
エルが必死に懇願するが、人間の国王はやはり聞く耳を持たない。
というよりかは思考を放棄しているようにさえ見えた。
ただ敵だから。ただ異世界人だから。
だから戦うのだと。だから殺し合うのだと。
国王はただそれが揺るがないことであるかのように叫ぶ。
「ふっ、元々こっちもそのつもりだ!もう二度と我らに刃向かえないようにじっくり痛めつけてやるっ!」
人間の国王の発言を聞いた異世界人の国王達はすぐに応戦の体勢をとった。
今まさに戦争が始まりそうなほどの空気感だった。
「待ってっ!戦ってはだめっ!」
だがそれでもエルは必死に叫んで争いを止めようとする。
「ふっ、無駄だっ」
するとそんなエルを見て、捕らえられていた異世界人の一人が嘲笑する。
「人間と我々との戦いは避けられないものだっ。どちらかが滅びるまでなっ」
「そんなことはないっ!」
しかし裏切り者の言葉にエルはすぐに否定をする。
「私達は異世界人とか人間だとかそんなの関係なしに仲良くすることが出来るっ。あなた達だって昔は種族が違う者とは敵対していたじゃない!なのに今では人間を倒すために手を組んでるでしょ!?人間だって種族が違うだけよ!だったら仲良くだって出来る!」
エルは必死に裏切り者に向かって叫ぶが、裏切り者は「ただの詭弁だな」と笑うだけだった。
人間と異世界人は戦う運命なのか。――いやそんなはずがない。
エルはそんな裏切り者の態度にも、人間や異世界人達の険悪なムードにも負けずにただ必死に前を向いてがむしゃらにあがこうとする。
「皆の者!いくぞっ!化け者共を殺してしまえっ!」
「人間共をぶち殺してしまえっ!」
だがそんなエルの想いは届かず、すでに両陣営は開戦状態だった。
「待ってっ!お願いっ!」
エルは再び拡声器で叫ぶが、両陣営はすでに動き始めていた。
「お願いっ!」
しかしエルは叫ぶことを止めない。
ただ平和を願って、人が死なないことを願って必死に叫ぶ。
だがエル一人の力で止められるほど、人間と異世界人との溝は浅いものじゃない。
その溝は底が見えないほど深く、そして広く広がっているのだ。
でも、だからこそ、エルはその溝を埋めるために必死になる。
それは当然エル一人だけじゃない。
「康生っ!準備はよいかっ!?」
「大丈夫だっ!早くしてくれリリスっ!」
両陣営がお互い歩み始めた瞬間、リリスと康生はすぐに動き出す。
本当なら康生もエルのように話し合いで解決出来ればいいと思っている。
でもそれが出来ない以上、康生は自分自身が出来ることをするまでだった。
全てはエルの夢のために――皆の夢のために。
「魔力は全て流し込んだ!後はよろしく頼むぞっ!」
そうリリスが言った瞬間、康生は一気に空中へと飛び上がるのだった。
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