第562話 指示

「くっ!裏切り者はどこにもいないではないかっ!」

 果てしない荒野を進む中、国王が苛立ちを隠せない様子で叫ぶ。

 上代琉生の無線によって、裏切り者の位置が知らされた国王達は真っ先に裏切り者を確保しに向かった。

 各々、ここで裏切り者を捕らえれば自身の身の潔白が少なからず証明されると思っているのだろう。

 どの国も裏切り者を探すのに躍起になっていた。

 さらには全て人間などに任せてはおけないと考えているのだろう。

 あれだけの力を見せられた以上、少しでも優位を保つためでもあった。

「まぁ、向こうの情報ではこちら側にいるのは間違いないようですから、根気よく探すしかあるまい。それに裏切り者は恐らく少数しかいないだろう。だから集中してないと見逃してしまうぞ?」

 そんな国王をなだめるようにクロスはそっと言い聞かせた。

「くそっ、分かっておる。そもそもあやつらに先を越されたのが気に食わんのだっ」

 クロスのおかげで多少は収まったものの、国王はやはり苛立ちを隠せない様子だった。

 とはいえ上代琉生の作戦通り、こうして国王達はまんまと騙されているのでクロスは一安心していた。

「しかし貴様はやたらとあやつらの肩を持とうとするな?」

 すると国王は、クロスに向けて疑いの視線を向ける。

 康生達の肩を持つような発言を聞き、裏で協力しているのではないかと疑っているようだった。

「ただのあれだ。リリスの父、元国王だったあいつと級友だった影響だよ。リリスは幼い頃から見ていたからな。だから少し情が働いているのだろう」

「ふっ、そうだったな。まさかあやつの娘が再び父親と同じことをしようとするとは流石に驚いたわ」

 だがクロスはリリスとは昔なじみということですぐに疑いをそらす。

「まぁ、かといって国王としての職務は全うしているので心配はご無用だ」

「ふっ、心配なぞしておらんわ」

 その言葉を最後に国王とクロスの会話が途切れ、再び裏切り者探しに集中する。

(――こちらもそうあまり長いこと時間を稼げないが、康生達は上手くやれてるだろうか)

 とクロスは国王達を見ながら康生達のことを思って心配するのだった。




「くそぉ!どこにも異世界人がいないではないか!さてはあやつら我々を裏切ったなっ!?」

 その一方で、異世界人達とは別方向に進んでいる人の兵士達は異世界人が見つからないことにだんだんと康生達に対する不安を募らせていた。

「国王っ、ここはやはり我々だけで捜索をしましょう」

 と声を荒げる国王に対し、指揮官の一人が口添えをする。

「そうだな。もうあやつらのことは信用してはならぬ。やはりあやつらは化け物共と同様だっ」

 そうして国王の指示によって、兵士達は進行を辞め、新たに動き出すのだった。

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