第561話 現状

「今回の最優先事項は異世界人と人間を戦わせないことです」

「そうじゃな。最悪お互い出会わせてしまっても戦わせなければいいだけじゃ」

「だけどそんなことは無理だろ」

「そうじゃな……」

 リリスの言葉に康生が反応する。

 康生の言うように、今の状況的に異世界人と人間を出会わせてしまえば確実に争いになる。

 異世界人は裏切り者を探しているだけだが、人間達は異世界人全体に恨みを持っているので恐らく戦闘を回避することが不可避だ。

「だが最悪戦わせなければいい、それが絶対条件だ。たとえ出会わせてしまっても、それを達成出来る手段も考える必要がある」

「そうですね」

 続いいてリナさんの言葉に上代琉生が頷く。

「だけどあの国王達は国に戻る様子がないからな……」

 奈々枝がため息をこぼす。

 あちらも裏切り者を完全に捕まえるまで帰れないのだろう。

 これもリリス達が国民の前でした約束が関わっている。

「とにかくだ。ようするにどちらかを先に帰してしまえばいい。人間が難しいならささっと異世界人の裏切り者を拘束すればいいだけじゃねぇのか?」

 難しい状況の中、ザグが大雑把にアイデアを出す。

「確かに現状その手段が一番簡単なんだろうけど……」

「問題はどう裏切り者を見つけるかってことですよね」

 だが康生と上代琉生は裏切り者を見つける手段で悩む。

 時間もそうない。しかも上代琉生の案で現状、異世界人達も人間達も騙している状態にある。

 多少言い訳が出来ない訳でもないが、どちらにせよ完全には信用してもらえてない状況だ。

「そんなに難しいのか?お主のことじゃからあの魔法を放った場所を特定したのじゃないのか?」

「一応特定はしましたし、確かに異世界人数名を捕らえることが出来ました」

 リリスが考えていたように、上代琉生はあの人間に対する魔法攻撃を放った者を捕らえているようだった。

「じゃあいいじゃねぇか。そいつらを人間達の前に出せば一見落着じゃねぇか」

 すでに攻撃した敵が捕まったと聞いたザグはすぐに人間達に明け渡そうと提案する。

「だかそう上手くはいかないだろうな」

 しかしザグの提案にリナさんが反応する。

「我々が敵だと言って受け渡しても人間共は絶対に信じない。それは異世界人達も同様だ。もう裏切り者は全員拘束したと報告しても、国王達は絶対に自分自身で調査を続けるはずだ」

「じゃあ俺達が何しようが駄目ってことじゃねぇかっ」

「だから悩んでいるのだ」

 どうしようもない現状に思わずザグが声をあげる。

 康生達はそれが分かっているからこそ、こうして頭を抱えているのだ。

「だけど俺達で何とかするしかないんだっ」

 そんなザグに対して康生は改めて自身の決意を話す。

「ですね」

 そんな康生の言葉に上代琉生はそっと頷くのだった。

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