第559話 小言

「上代琉生っ!お前のせいで兵士達が東側に行ったぞっ!」

 兵士達が康生を無視して東へ進んでいくのを見ながら康生は無線越しに上代琉生を怒鳴った。

 無線の声が全体に聞こえたせいで、異世界人の居場所が兵士達にばれてしまったのだ。

 止めなければいけないのに、逆に異世界人達の方へ向かっていってしまったことに康生はかなり焦っていた。

『安心して下さい英雄様』

 だが上代琉生は焦る様子もなく康生をなだめる。

「何か策があるのか?」

 流石のリナさんも康生同様に焦っているようだった。

 だが上代琉生がそんな失敗をする訳がないという思いだけでリナさんは冷静に問いつめる。

『はい。実は東側には異世界人はいません。今同じようなことをして異世界人達を西側に行かせました』

「なるほどお互いを誘導したのか」

「そういうことか……」

 上代琉生の説明にリナさんと康生はようやくその意図に気づいた。

 つまりお互いに敵がいる位置をばらして移動させることで、それぞれ逆方向に移動させるということだ

「だがそれではただの時間稼ぎではないのか?それに嘘だとばれれば我々も敵対されかねないぞ?」

 だがリナさんは今後のことを考えて指摘する。

『分かってます。だけど絶対に双方を戦わせては駄目です。そうなってしまったら我々の負けが確定してしまいます。ですので今は時間稼ぎをして何かどうにか出来る方法を考えます……』

 流石の上代琉生のこの急展開の状況に、すぐに対応できるはずもなくひとまずは時間稼ぎをしているようだった。

『それとクロスさんとリリスさんがいた国の現国王か我々の味方になってくれました』

「そうかクロス国王が……」

 ここで上代琉生はひとまず現在の状況を共有する。

『隊長っ、国王達も全員移動を始めたよ!』

 すると今度は無線から奈々枝の声が聞こえた。

『そうか、ありがとう』

 これでひとまず双方を逆方向へ移動させることに成功した。

 だがこれからどうするか。

 その場の者達は今後の展開について頭を悩ませる。


「良かった。間に合ったわね」


 すると遠くから声が聞こえてきた。

 康生が振り向くと背後にはエルとリリス、ザグ達が康生の元へと走ってきていた。

「エルっ、無事だったかっ!」

 こうして無事なエルを見ることで康生はすぐに安心したように頬を緩ませた。

「康生はまた無理をしたんだってっ!?」

 だがエルは康生を見るや否や、また無茶な戦いをした康生に向かって小言をぶつけるのだった。

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