第557話 時間

『副隊長っ!説明をしましたが皆話を聞いてくれませんでしたっ!』

 奈々枝の元にそんな無線が入ってくるのだった。

「なっ……」

 しかも同じような内容の無線がいくつも入ってくる。

 皆同じように「人間相手に逃げるなど何事だ!」と怒り狂ったような異世界達の声が聞こえてきた。

 どうやら人を前にして異世界に戻ることはプライドが許さないのだろう。

「そんなっ……。なんとか説得をお願い!」

 奈々枝はとにかく隊員達に説得を続けるように指示を出した。

「いや、恐らく止まらないぞ」

 だがクロスがすぐに呟く。

「そもそも俺達はお前達をまだ完全に信用していない。あくまで手を出さないという約束があるだけだ。だからそもそも国王達がお前達の指示に従うことはないだろう」

「で、でもっ!このままじゃあ大きな戦争が起こりますよっ!そんなの双方にとって悪いことだらけじゃないですかっ」

 異世界人と人間。

 それだけだったら戦いは圧倒今に決着がついてしまう。

 昔にあった戦争でも結果はそうだったのだから。

 だが今回は双方が魔法を使用する。

 となれば被害は前の戦争なんかよりもはるかに拡大する。

 だからこそ止めなければならなかった。

「その意見に関しては同意見だが、国王達はそんなことは考えないぞ。皆、君達のような利己的な人だったらよかったのだがな……」

「そんな……」

 国王達は止まらない。

 わざわざ戦争を起こそうとする気持ちは奈々枝には分からないが、今までの歴史から奈々枝はすぐにクロスの言いたいことを理解した。

「だが私達は君たちに少なからず協力することを約束しよう。と言っても私達が不利になるようなら即刻関係をきらせてもらうがな」

「ありがとうございます」

 だがそんな状況でクロス達が協力してくれるのは本当にありがたかった。

 ただでさえ味方の数が少なく、敵の数が多すぎるのだ。

「恐らくだがリリスの後任の国王も協力してくれるはずだ。あいつもかなり利己的な奴だからな」

「本当にありがとうございます。皆さんの不利益になるようなことは絶対にさせませんので」

 そうして奈々枝とクロスは協力関係を結んだ。

 だがそれでも国王達の軍勢は遙かに多い。

『奈々枝っ!異世界人達の足止めを頼む!』

 すると上代琉生から無線が入った。

「でも国王達はちりぢりです!隊員達に説得してもらっているけどまるで効果がっ……」

『分かってる。今人間の兵士達に一番近い部隊の情報を送ったからまずはそこに行って数分でもいいから時間を稼げ!』

「分かった!あとクロスさん達が協力してくれることになったから連れて行くよ!」

『了解したっ』

 そうして上代琉生と短く言葉を交わした奈々枝はすぐさまクロスと共に国王がいる部隊へ向かうのだった。

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