第556話 無線

「そう。康生達は止めに向かったのね」

「そうみたいですね」

 無線を聞いていたエルが上代琉生に問いかける。

「ごめんなさい……私がもっと皆を説得できていれば……」

「いえ。エルさんのせいじゃありません。敵の思惑にまんまと乗せられただけです。ですので俺はすぐに事態の収集のために異世界人達の元へ向かいます」

「そう、ね。いつまでも悔やんではいられないわ。それじゃあ私は康生と合流することにするわ」

 人間の兵士達に説得することが出来ず進軍を許してしまったエルは少しばかり落ち込んでいた。

 しかし上代琉生の言葉でエルは少しばかり自信を取り戻して前を向く。

「それじゃあ隊員を数名同行させます。後の指示は隊員達から聞いてくださいね」

 上代琉生はそれだけ言うとすぐ様駆けだしていった。

 康生が作った魔道具を使っての高速移動だ。

 恐らくそれだけ焦っているのだろう。

 だからこそエルもなんとしても頑張らないといけなかった。

「それじゃあ皆行きましょ」

 そうしてエルは再び人間の兵士達を説得するために隊員達を連れて駆け出すのだった。




「なんだったのだ今の攻撃はっ……」

 その頃、遠くの空に放たれた魔法攻撃に異世界人達は動揺していた。

「今の方向はもしかして……」

 そんな中、奈々枝は一人表情を真っ青にしていた。

「どうした?今の攻撃に心当たりがあるのか?」

 奈々枝の様子を見たクロスは奈々枝を心配するように声をかける。

 が、奈々枝はすぐに敵の思惑に思い当たり行動を起こす。

「皆さんすぐに異世界に帰って下さい!敵の目的は皆さんをここに来させることだったんです!」

 だからこそ奈々枝はすぐに叫んだ。

 同時にそれぞれの異世界人達の部隊に配属された隊員達に指示を出してすぐに戻るように頼んだ。

「一体何があった!敵の目的が我々を呼び出すとは一体どういうことだ?」

 状況が分からない異世界人達は奈々枝の言葉に戸惑い、クロスがすぐに訳を問いただす。

「今の攻撃は先ほど攻めてきた人の兵士達がいる方向へ向かって放たれました!それによって恐らく兵士達は皆異世界人の攻撃だと思い、皆さんを見つけ次第攻撃を仕掛けてきます!だからお願いです!皆さんはすぐに戻って下さい!」

「まさかっ……」

 奈々枝の言葉を聞いてクロスもようやく敵の思惑に気がつく。

 明らかに不利だと思われた敵の行動にそんな意図があったと知り、クロスはすぐに軍を撤退させようとする。

 だが、

『副隊長っ!説明をしましたが皆話を聞いてくれませんでしたっ!』

 奈々枝の元にそんな無線が入ってくるのだった。

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