第545話 お願い

「敵が攻めて来たぞっ!」

 康生達が進軍すると同時に、異世界人達がその存在に気づき声をあげる。

「くそっ!人間風情があの攻撃の中を抜けてくるとはっ!」

 中央にいる指揮官らしき者もすぐに康生達に気づく。

「殺せっ!奴らは我々の敵だ!全員まとめて殺してしまえっ!」

 こちらを見つけるや否や異世界人達は問答無用で攻撃態勢をとってくる。

 まぁあの火の玉の攻撃を突然仕掛けてきたのだから当然の反応だ。

 だがそれでも奈々枝は何か誤解しているのではないかと信じ、説得を試みる。

 当然康生達も奈々枝に協力するつもりだ。

「ひとまず俺が前線でくい止める!皆はもれた敵を頼むっ!」

「はいっ!」

 まずは奈々枝が指揮官の元にたどり着けるように康生が先頭に立って敵をくい止める。

 互いに混戦に持ち込み、その隙に奈々枝が指揮官の元へとたどり着くというなんとも単純な作戦だ。

 病み上がりとはいうものの、康生の体もだいぶ動くようになり魔力さえ使わなければ十分戦えるくらいには戻っていた。

 だが敵は異世界人。

 魔法を使ってこられてしまえば康生は苦戦せざるを得ない。

 だからこそそういう敵は仲間に頼む。

「お願いしますっ!」

「任せて下さいっ!」

 康生がつっこむ中、敵の一人が魔法を放ってくる。

 その瞬間にわずかに動きを遅くした康生の前に仲間が出てきて魔法を打ち消してくれた。

「魔法部隊は敵の魔法に集中!残りの奴らは突撃だっ!」

「「「「おぉっ!」」」」

 康生の指示の元で兵士達は次々に敵に向かってつっこんでいく。

「こうやって魔力なしで戦うのも久しぶりだなっ」

 敵のど真ん中でグローブをつけて康生はとにかく暴れ回る。

 魔法の相手は異世界人に任せているので今の康生は目の前の敵だけに注視出来てのびのびと戦えていた。

「後は頼んだぞ!」

「分かったっ」

 そうして康生達が戦いを始めた隙に奈々枝が真っ直ぐに指揮官へと向かっていく。

 康生達に集中していたからか、指揮官の背後はてんで警戒などされていなかった。

 それだけ舐められているという証拠だが、今の康生達には好都合だった。

「あなたがここの指揮官ですか?」

「なっ!?き、貴様いつの間にっ!?」

 突然背後から現れた奈々枝に指揮官はびっくりする。

 すぐに兵士達を呼び戻そうとする指揮官だったが、康生達が暴れているおかげで兵士達は指揮官の指示を聞くことが出来なかった。

「教えて下さい。どうして私たちを攻撃するんですか?」

 一人だけなら殺せると思ったのか、指揮官は奈々枝の言葉を無視して攻撃を仕掛けてくるが、奈々枝はそれを難なく回避する。

 さらにその拍子に目の前まで接近されてしまう。

「私たちはあなた達と敵対するつもりなんてないの。だからお願い、攻撃するのをやめてちょうだいっ」

 しかし奈々枝から攻撃を仕掛けることはなく、ただひたすらに指揮官に訴えかけのだった。

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