第540話 邪魔

「もしかすると今仕掛けている敵は異世界人かもしれん……」

「異世界人だとっ!?」

 リリスの言葉を聞いて時雨さんが真っ先に驚いたように声をあげる。

「一体どうして異世界人が私たちに攻撃をっ?会議で私達には手を出さないよう約束したはずっ……!」

 まるで信じられない現実に時雨さんは声を漏らす。

 それもそうだ。時雨さん達は異世界での会議でしっかりと話を付けてきたはずだった。

 なのにどうして自分達が攻撃されなければならないのか全く分からない。

「でもあれほどの魔法は異世界人にしか出来ません。あれだけ精度が高く、魔力が込められた魔法は恐らく人間にはまだ出来ないはずです」

 しかし康生は冷静に火の玉を分析する。

 人間も魔法を使うようになったが、やはりまだ精度という面では異世界人よりも劣っていた。

 だからこそ康生はすぐにあれが異世界人からの攻撃だと分かったのだ。

「そうじゃ。あれは明らかに我々異世界人の魔法。それだけは絶対の事実じゃ」

「でもあの会議で……」

 異世界人だと断定されても、やはり自分達が攻撃される理由が分からなかった。

「それは我にも分からん。だがもしかすると我々に反対する勢力の仕業かもしれぬ」

「反対する勢力……」

 とにかくこれ以上ここで話しても埒が明かない。

 敵の正体を突き止めないことには何も始まらない。

「俺行ってきます」

「ま、待て!お前はまだ休んでないとっ!」

 しかし当然のように時雨さんは康生を止める。

「今はとにかく状況把握が先決です。そのためにも力は出し惜しみできない。きっと上代琉生もそう判断すると思いますよ」

 だが康生は止まらない。

 自分に何か出来ることがあれば迷わず力を使う。

「……分かった。じゃが必ずリナや奈々枝と合流するんじゃぞ」

「分かってますよ。もう俺一人で抱え込みません。皆で頑張ります」

「ふんっ、ならよい」

 リリスも康生を止めようとしたが、前のように何もかも一人でやろうとしないということを知り止めるのをやめる。

 それに何を言っても無駄だと判断したのだろう。

「じゃが死ぬなよ。お主が死ねばエルが悲しむ。それに時雨もな」

「ちょっ、リリスっ!」

 リリスの言葉に時雨さんはわずかに顔を赤くする。

「分かってますよ。それじゃあ行ってきますっ」

 しかし康生はそんな時雨さんの反応を気にせず戦場に向かって走っていく。

「もうっ、変なことは言わないで下さい」

 康生が去った後、時雨さんはリリスに抗議を入れる。

「ふっ、あれだけ言っても伝わらない鈍い奴じゃ。お主も頑張らないとエルにとられるぞ?」

 まるで時雨さんの心の内を見透かしたようにリリスは言う。

「分かってます。でも今は康生の邪魔はしたくいなんです」

 と時雨さんは少し寂しそうな表情を浮かべるのだった。

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