第537話 心配

「何っ!?」

 突然の爆発音にエルが反応する。

 爆発音が聞こえた方向はちょうど康生達がいる拠点がある場所。

 嫌な予感を感じたエルはすぐに確認をとろうとする。

「何があった!」

 しかしエルが無線をつける前に上代琉生が先に無線で呼びかけるのだった。

「奈々枝っ!」

 だが無線の先からは何も声が聞こえない。

 珍しく上代琉生が焦ったように声を張り上げたことにエルが少し驚くが、今がそれほどの緊急事態だということを物語っていた。

「くそっ。エルさんっ、すぐに戻りますよっ!」

「う、うんっ」

 これ以上無線を使っても無駄だと判断したのか、上代琉生はすぐに爆発音の発生源へと向かおうとする。

 エルはすぐにその後をついていこうとするが、すぐに何かを思い出したように立ち止まる。

「ま、待って!向こうも心配だけど、今はあの兵士達に説明しないと私達が反逆したみたいになるっ」

「くっ……」

 エルの言葉に上代琉生がすぐに立ち止まって苦い表情を浮かべた。

 確かに敵兵が帰っていたのは少し前のことだ。

 ここまで爆発音が明確に聞こえた以上、当然敵兵達にも聞こえているはず。

 国王は最後、背後を狙うようであれば貴様等を敵とみなすといっていた。

 それはつまり人と異世界人との協定がなくなるのと同じことだ。

「向こうには私がなんとか説得してみる!だから後は任せるよ!」

 少しでも時間がかかれば敵兵はすぐにでもこちらへ向かって進軍してくるかもしれない。

 だからこそここはエル一人で敵兵を説得するしかなかった。

 本来ならばエルの身を案じて上代琉生も同行したいのだが、状況が状況だ。

「……分かりました。くれぐれも危険だと判断したら絶対に逃げて下さいね」

「うんっ、任せてっ」

 そう答えてエルは敵兵達の方へと走っていくのだった。

「じゃあ俺はとにかくすぐに現状把握を」

 エルがいなくなった後、上代琉生は一度深呼吸をして落ち着く。

 そして魔道具をフル出力で発動させる。

(最悪の展開にだけはなってないことを祈るしかないかっ……)

 嫌な想像を浮かべながら上代琉生はすぐに走り出すのだった。




 爆発音がする少し前。

 康生達は拠点へと到着していた。

 ザグが未だ目覚めてないことに奈々枝は気を落としているが、それでもこうして無事に戦闘が終わって皆安心しきっていた。

 康生もようやく体を動かせるほどにはなかったが、まだ体が万全ではないので時雨さんの命令によって横になって休んでいた。

「エル達は大丈夫なのかな……」

 康生は国王と対話をしているエル達を心配しながら待っていた。

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