第536話 胸騒ぎ

「――つまり貴様等は我々と戦うつもりはないと。異世界人共からも戦いを挑んでこないように説得すると?」

「はい」

 先ほどから馬車の中でエルは真剣に国王に自らの想いを語っていた。

「だから皆さんにこれ以上異世界人に戦いを挑まないことをお願いしたいんです。でないと今後の争いは被害がさらに広がってしまいます」

 今回の戦いで、人間が魔法を使っているのを見たからこそエルは危惧しているのだろう。

 だからこそ必死に頼み込む。

 こうして話を聞いてくれるからこそ、分かりあえるとエルは判断した。

「だからどうかお願いです。これ以上争い続けるのはやめて下さい」

「う〜む……」

 エルの懇願に国王がうめき声をあげる。

 だがエルも今ここで一存してもらえるとは想っていない。

 だから今回は話を聞いてくれるだけでよかった。

 今までからすれば話を聞いてもらえるだけで大きな前進だった。

「とにかく今は私達の話をよく考えてくれるだけでも嬉しいです」

 だからこそしつこく説得しようとせずにここでお開きとする。

 これも上代琉生から教わったことだ。

「分かった。それじゃあ我々はこれで帰らせてもらう。だが、もし背後を襲うようなことをすれば今日の話は全て戯れ言だと受け取るぞ」

「えぇ。安心して。絶対に手は出さないわ」

「ふんっ、ならいいんだがな」

 それだけ言われ、エルと上代琉生は馬車を出る。

「それじゃあ一応拘束させていた兵士達も含めてすぐにここに連れてくるよう連絡しますよ?」

「あぁ、頼む」

 馬車を出た後は上代琉生の指示によってすぐに敵兵達は国王の前に集められた。

 自分達は負けたのだから、当然国王は殺されているとでも思っていたのだろう。

 さらにいえば自分達も殺されるのだと。

 だが集められた兵士達はすぐに国王の指示の元帰還することになる。

 終始戸惑いの表情を浮かべていた。


「これでよかったのよね?」

「はい。少なからず大きく前進したと思いますよ」

「ならいいんだけど」

 帰還する兵士達を見送りながらエルはわずかに不安をもらす。

 良い方向に向かっていると思っているが、それは確実なことではない。

 確かに話を聞いてもらえるだけで大きく前進できた。

 上代琉生の言う通り、風向きは確実に良い方向へと向かっている。

 だけどエルは何やら胸騒ぎがして仕方なかった。


「――このまま何もなければいいんだけど」


 エルが呟いた瞬間、まるでタイミングを狙っていたかのように爆発音が響きわたったのだった。

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