第535話 審議
「話じゃと?」
「はい、せめて私達の話を聞いて下さい。お願いします」
国王を前にエルは頭を下げる。
戦いは既に決着がついていて、こちらが圧倒的有利な立場にいるにも関わらず、エルは相手と対等になろうとする。
だが国王自身からすれば、国王と対等な立場など言語道断なはず。
しかしこの状況で、あまりにもエルが礼儀正しい対応をするので国王はわずかに困惑する。
「ぐっ……」
すでに相手に殺される覚悟をしたからこそ国王は戸惑っていた。
負けた敵にどう対応していいのか分からないようだった。
「私達はあなたと話をするだけでその先は何も望みません。あなた方を殺したりもしません。無事に送り届けると約束します。ですので私達の話をどうか聞いて下さい」
最後の一押しと言わんばかりにエルは深く頭を下げた。
「くっ、貴様はなんなんなのだっ!我々を殺そうとしているのではないのか!?貴様等は化け物どもの味方じゃないのかっ!?」
そして等々国王の感情が爆発してしまう。
エルの態度が今までのイメージからかけ離れすぎていた。
異世界人は敵だと決めつけ、対話も出来ない存在としてただただ殺し続けてきた。
しかし今国王の目の前にいるエルはまるで人間のように話を聞いてくれるように訴えかけてくる。
あまりにも目の前の光景に異質さを覚えた国王は感情をむき出しにする。
「だから話を聞いて私達のことを知って下さい。私達はあなた達と敵対する気は元々ありません。私達はただ仲良く平和に暮らしたいだけなんです」
「仲良くなどっ……そんなこと、貴様等化け物共なんか、と……」
エルの言葉に国王はだんだんと自身の思いに疑問を抱き始める。
目の前の奴らは何者なのか。人間の敵ではないのか。化け者共ではないのか。
「どうですか?話を聞いてくれますか?」
最後の一押しにエルは国王に尋ねる。
「…………」
その問いにしばらく熟考した国王だったが、やがて諦めたようにため息をこぼす。
「もう好きにしろ。我にはもう分からない……」
「ありがとうございます」
無事に国王と対話する許可をもらったエルは表情を緩める。
そうしてエルと上代琉生は国王に案内され、馬車の中へと入っていったのだった。
「ただいま報告が入りました。リリス様の陣営が勝利したようです」
ここは異世界。
リリス不在の中、戦闘の結果を待っていた各国の国王達は結果を聞いて、敵がいなくなったことにほっと一息ついていた。
「ひとまず脅威は去ったか」
「だがどうする?奴らはついに我々と同様の力を手に入れた」
「確かに。奴らが魔法を使えばそれは脅威になる」
「う〜む……。しかしあやつらとの約束を全国民の前でしてしまった」
リリスがいない中、各国の国王は今後の対応についてをそれぞれ審議し始めるのだった。
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