第534話 拠点

「また眠ったか」

「そうみたいですね」

 康生が眠ったのを見たリリスと時雨さんはくすりと笑った。

 二人は無事に康生が目覚めてくれた安心したのだろう。

「これで何もかも無事に終わってくれますかね?」

 康生の寝顔を見ながら時雨さんはリリスに尋ねる。

 何もかもというのは、恐らく争いのことだろう。

 これほどの争いを経て、時雨さんはより一層こんなことを続けてはいけないと分かった。

 だからこそ争いがこれで終わってくれることを願っているようだった。

「そうだな。少なくとも人間側の対処はエルと上代琉生に託すしかない」

 リリスは複雑な表情を浮かべる。

 恐らくこれで争いがまだ終わらないことをなんとなく予感でもしているのだろう。

 ひとまず異世界では納得、とまではいかないがこの戦いには手を出さないように約束してきた。

 後はリリスの想いがどれだけの人の心に響くかどうかだ。

 そして人に関しては現在エルと上代琉生が国王と交渉をしているはず。

 だからリリス達は現在、じっと待つことしか出来ない。

 しかしそれ以前に、重傷者が多いのでじっとしているしかない状況だ。

「そうですか……」

 この戦いが無意味なものではないが、それでもまだ終わらないことを気づいた時雨さんはため息をついた。

「どれ、我はザグの様子でも見に行ってくる。康生のことは任せたぞ」

「は、はいっ」

 そう言ってリリスはザグの様子を見にいく。

 ザグの元では先ほどから奈々枝が看病しているが、一向に目覚める様子はなかった。

 異世界人に治療してもらったので、命に別状はないが、今は意識が戻らないでいた。

「奈々枝。お主も少し休んだらどうじゃ?お主も疲れが溜まっておるじゃろ?」

「いえ、私は大丈夫」

 地下都市からここまで一人で走ってきた後に、戦場で指揮をとり続けていたのだ。

 当然奈々枝の疲れは相当溜まっているはず。

 だが奈々枝はザグのことが心配のようで、治療が終わった後もずっと看病を続けている。

 いくら休めと言っても聞く耳を持たないのでリリスはどうしようか悩んでいた。

 すると、ちょうどリナさんが無線から指示を受けて戻ってくる。

「皆、直ちに移動するぞ。エルお嬢様達が国王との交渉を始めた。我々はひとまず拠点に帰還する」

「だそうじゃ。奈々枝、ザグのことをお主らの部隊に任せて行くぞ」

「…………」

 最後まで自分で面倒をみたいのか、奈々枝はザグと別れるのを少しだけ躊躇ったが、皆に迷惑をかける訳にはいかないとすぐに判断する。

「分かったわ。それじゃあ後はお願いするわね」

 そう言って近くまで来ていた隊員達にザグを任せる。

 向こうでは康生も同じように運ばれている最中だった。

「もし目が覚めたらすぐに知らせて」

「はっ!」

 そうして奈々枝達はそれぞれ拠点へと戻るのだった。

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