第533話 安静

「うっ…………こ、ここはっ……?」

「康生っ!?」

 目が覚めると康生はいきなり時雨さんに抱きつかれる。

「し、時雨さんっ……!?」

 突然抱きしめられてしまい、康生は頬を赤くして動揺する。

「よかったっ!本当によかった……!」

 しかし時雨さんはそんな康生の動揺を知らずに、ただただ涙を流す。

 それほどまでに心配していたのだと、康生は時雨さんの気持ちを痛いほど知ることになった。

 そしてすぐに思い出す。自分が一体どうなっていたのかを。

「俺…………」

 思い出した瞬間、康生の顔が一気に青ざめる。

「ようやく目覚めたか」

「ふっ、散々迷惑をかけおって。我がいないとどうなっていたことやら」

 そんな康生の元にリナさんとリリスがゆっくり近づいてくる。

「まぁ、そういうな。康生も大変だったんだ」

 康生の目が覚めたことで安心したのか、時雨さんが庇うように言ってくれる。

「い、いえ……。今回は完全に俺の失態です。本当にすいませんでした……」

 魔力暴走していた時の記憶を思い出して康生は謝罪する。

 だが体を動かそうとしても思うように動かなかった。

 どうやら魔力暴走の影響で、しばらく体は使い物にならいみたいだ。

「そうだな。貴様のせいで要らぬ労力を割いた」

「本当にすいません……」

 だがリナさんが珍しく怒りを露わにする。

「以前から言っているだろ。貴様は一人で背負い込みすぎだ!何度も言っているにも関わらずにだ!そして今回の事件が起こった。貴様にはしっかり反省してもらうからな!」

 今まで溜めていた康生に対する不満をぶつけるようにリナさんは吐き出す。

 そして時雨さんもリリスもリナさんに同意しているのか、何も言ってくることはなかった。

「それに貴様が真っ先に謝るべき相手は私たちじゃない。まずはあいつに謝罪しろっ」

 リナさんはそれだけ言うと、視線を康生の背後へ向ける。

 康生もすぐに視線を背後に向けると、そこにはザグが地面に横たわっていた。

「ザグっ!……そ、そうだ、俺……ザグに……」

 ザグ相手に全力で戦ったことを思い出す。

 あれだけの攻撃をザグにしてしまった。

 その後悔に押しつぶされそうになりながらも康生は体を這い蹲らせながらも近くに行こうとする。

「ザグはまだ休んでいるだけじゃ。命に別状はないから安心せい」

 しかしリリスがすぐに康生を止める。

「お主もあまり無理をするな。本来魔力暴走から生還するなどあり得ない話。しばらくは安静にしておれ」

「そうだぞ康生」

 時雨さんとリリスに強く言われ、康生は反省の念にかられながら横になるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る